魔女とネズミとゾンビ 3
――祝祷をあげるのです。
聖女いらなくね?
先ずはそう感じたあたしの隣に、邪気が忍び寄ってた。
ムラムラ~、ユラユラ~ってな煙のような気配。
その気配を魔王ちゃんが払ってくれる。
しっしってな具合で手で煤払うような感じで、だ。
くー、流石はあたしの半身だよなあ。
もうすっかり。
あたしが半身扱いじゃねえか。
「セルコットは何もしなくていいよ」
甘く囁く甘美な声。
ミロムさんの腕があたしに巻き付く。
耳元では恐ろしい言葉が聞こえた気がするけど。
細い腕からは想像もつかない、剛力で締め付けてくる。
「ちょっと、痛いって。あ、でも待って、これは、あ。うん、気持ちいい、かも」
気を失いかけたあたしを、後輩がひっぱりあげてくれた。
締め付けてきたのは植物の化け物。
甘い香りを放ち、獲物に理想的な虚実を見せて狩るタイプ。
ミロムさんと、お爺ちゃんの共同作業により、あたしが救出された。
「ちょっと、囲まれたんじゃ?!」
後輩が叫んで、神殿騎士のお爺ちゃんと、副団長のお姉さんが身構えて。
聖職者たちはみっともなく震えてた。
ごめん、蒼炎の――。
あたしら魔物に襲われたんで、あんたの救出。
ちょっと遅れるかも知んない。
◆
そんな声が届いたわけでもないけど。
蒼炎の魔女もちょっとピンチが迫ってた。
未だに魔法の類は使ってない。
使えるかもって漠然とした気配はあるようで。
ただし、敵地のど真ん中でキャンプファイヤーに、BBQでもするようなもんだから。
気が付かれない筈はない。
仮に、だ。
蒼炎の魔女に、この世の理不尽すべてを覆す力があったとしても。
多勢に無勢って言葉はついて回るんだわ。
だって魔王ちゃんでも、簡易召喚魔法でエルダーク・エルフの使い魔を呼び出さないと、多勢に対抗する術はない。いや正確にはその多勢を退ける為の大技、これに時間稼ぎが必要になる。
詠唱はしない分。
イメージを固めるだけの“練り”が必要。
それでも何十小節もの詠唱呪文を口ごもるよりも早く、組み上げて放つことが可能だ。
そんな高等な重爆撃に巻き込まれたくはないんで、あたしとしては数でブイブイ言わせて押し切りたいところだ。
ま、その数が頼りないんではある。
おっと。
外が騒がしい。
ゾンビの奇声――手で口や鼻を覆ってた蒼炎も、何事かと屋根の隙間からこっそり覗いてみた。
わらわらと集まる死者の群れ。
うわ~どこから集まって来たんだよって声が出そうになって、必死に堪えて。
そこへ冒険者たちがブロードソードで応戦してる状況に遭遇した。
蒼炎の救援が彼らを誘ったのではなく、乙女神の啓示により訪れたのだが。
あたしのところには啓示が来なかったんだけど?
ああいいよ。
きっと出前のラーメン汁で鍋敷きを汚して、御使いの連中に怒られてたんだろうさ。
で、なんで蒼炎がピンチかというと。
偽ネイザーさんがデミミノタウロスの群れを、邪神の香炉とかいうアイテムで興奮させて連れてきた。
この興奮状態と言うの良くない。
目につく家屋をなぎ倒しながら、冒険者の一群へと突進させてたからだ。
あんた、ピーンチだよ!!!