魔女とネズミとゾンビ 2
「そいつはオイラたちにはピリっと口当たりがよく」
木の実を運んでくれたノラネズミたちの言。
悪意はないんだろう。
これは彼らなりの善意だ。
だが、しかし。
今、無意識に殺されそうになった。
《魔法が使えれば、この食えない実だって林檎なんかに変えられるのになあ》
妄想するだけ腹が減る。
割り切って食えば腹痛程度で。
退きとどまった。
今、こんな状態で腹を下したら、死ぬ。
偽ネイザーは根拠地から彼女が逃走したことに気が付いている。
故の追っ手なのだ。
徘徊するゾンビが増えた気がする。
「ま、それは仕方のない事ですね」
ん?
「なら、魔女さまは喰えそうな実と、喰えなさそうな実。サンプルをいくつか選り分けておいてください!! わたしたちの方で選別してまいります」
うっわー頼もしい。
これ、絶対に臣下決定じゃんよ。
◇
かくして、魔法が使えない魔女と。
むちゃくちゃデキる従者ネズミ。
目をギラつかせて徘徊するゾンビたちの、タイトル回収が出来たところで。
あたしら聖女一行の話もここでしておこう。
あたしらの足は山鳩とハヤブサの先導を得て、“メラート”郊外へと向かう。
魔獣車の脚だと、3ないし4日。
これでも徒歩で走破するよりかは早い。
なにせ、邪神の影響下で邪気がそこら中に吹き溜まりみたいになってる。
これを吸い込むと、やる気ゼロになって。
引き籠りニートっぽくなるんだ。
教会の従僕のひとりが誤って吸い込み、重度なニートになった。
脱力しちゃって、聖職者であることを放棄した。
隅っこでブツブツと『俺はデキるんだ、言われなくっても成果なら、いや。もっと上を目指せる、明日から本気出せば......必ず、だ、だから今日は、今日までは...』なんて独り言を念仏のように、唱えてる。
恐ろしいなあ、邪神の力。
「――ったく、これで7人目だ!!! なんだって好き好んで吹き溜まりなんかに近寄るんだよ、吸い込まれるようだったとかの証言もあるが、だ。だったら止めてやれよ、仲間じゃねえのか?!」
怒れるヒルダさんも。
黒っぽい影に惹かれている神父を見た。
まるで腕でも引かれてるようだったと、証言してた――結果、こうして脱力者になった。
その罪悪感が心を占める。
「はいはい、ヒルダさんももう気にしない!! 流石に誘惑が多くなってきたので、魔王ちゃんから提案がありました(魔獣車を盾にキャンプが張られる)。ちょっとここいらを浄化したいと思います」
そう、聖女のあたしの出番だ。
はは、みんな輝いた瞳であたしを見てるんでしょ... もう、そんなに期待しないでよ。
あたし照れちゃうよ?
は?!
なぜ、見てない!!
「魔王ちゃんは思うのです(ハイって合いの手が入る)。邪気は、ヒトの心の隙に忍び寄ってくると、故に、自分たちは“神”の徒であるから大丈夫...なんて馬鹿げた考えと、自負は捨てないとダメです。ヒトは弱い、エルフも魔人も、猜疑心があれば病のように襲ってくる。それが邪気の正体です!! ですので、先ずは助けを呼びましょう!! 天界に.......たぶん、今、遊んでるであろう乙女神さまに、助けを求める祝祷をあげるのです」