魔女とネズミとゾンビ 1
メラート郊外の名もなき廃村。
村長の家屋の地下には抜け道があった。
使い魔のネズミがしばらく前に見つけ、主人の魔女を逃がしたとこだが。
彼は屋内に留まって、ノラのネズミたちにゾンビの監視を引き継がせたとこだ。
デキるネズミは宝だ。
さてと。
ゾンビから逃れた蒼炎は、だ。
死臭漂う厩舎へと逃げ込んだ。
そう生き物からにはいい匂いがでてる。
泥パックや、河などの水に触れれば一時的に痕跡を隠すことが出来るけども。
長くはもたないのが通例だ。
だって、泥パックは乾燥するとひび割れる。
ついでにこっちの肌から油分や水分も持っていくから、荒れる原因になって。
言わなくても分かるよね?
こっちがカビカビのティシューの二の舞になるんだわ。
ゾンビたちには“栗の華”めいた香りに感じるらしい。
しらんけど。
《さて、気持ち分肩が、軽くなった気がするけど》
厩舎の屋根裏に逃げ込んで、
隙間から外を見ると、夥しい数の死者と魔獣の群れが廃村にあった。
まあ考えられるのは“偽ネイザー”の仕業だろう。
《ここは使い魔たちに、頼るしか》
鳥が家屋の屋根などに巣を作るは、珍しくもないけど。
頻繁に通うのは自然を通り越して不自然に見える。
だって物騒な廃村のしかも、隠れられそうな屋根裏に飛び込んでいくハト、ハヤブサ、ワシに、カラスってどんな集合団地だよって。まあ百歩譲って同じ鳥類だからそれぞれの動物に博愛だのがあるとして――いやいや、やっぱり不自然だ。
肉食と同居する草食は無理がある。
先ず、いの一番に。
使い魔1号であるネズミは、彼女の提案を却下した。
「ひもじいでしょうけど、私が運んでくる木の実だけで我慢してください」
ネズミなら不衛生と罵られる地でも逞しく生存できる。
ダンジョンの最奥にだって棲息するし。
偶にはドラゴンの話し相手だったりする。
あいつらはマジ、すげぇーんだわ。
で、そんなネズミはゾンビもエサにすることが出来る。
ま、動きの鈍い死体を齧るだけだが。
骨に成ったらスケルトンの出来上がりだ。
こうして、ダンジョンでは底辺が生まれるんだ。
流れ的には――
冒険者が罠にかかって死ぬ。
(たぶん、モンスターに殴られたりして死ぬケースもあるだろう...
ダンジョン特有の魔法めいたもので蘇生される。
肉体だけだが、持ち主だった魂魄はゴーストになるんだよ。
暫くすると、ネズミがゾンビを見つけて齧り始める。
ビーフジャーキーみたいな感覚でボリボリいい音で齧る、あ、そんなおやつが如き雰囲気で。
群がってたネズミが去ると、そこに骨が遺されるんだ。
ああ、素晴らしきは食物連鎖。
◇
蒼炎の手には、彩ついた様々な木の実がある。
ざkっと見た感じだと食えそうな雰囲気もあるけど。
「こ、これ...ひょうたんのような形の...赤い実?!」
彼女の掌の中には同じ色の別のものもある。
そいつは食べてもいい“スイカズラ科”の植物で。
一見すると、耳飾りのようなシルエットが実に美しい。
「あれ? 魔女さまは食べられません???」
魔女たって、魔界の王に操を立てたわけじゃないし。
人外でもない。
魔法使いの女性版ってなだけだ。
名称以外、中身は至ってふつうの女の子である。
家庭をもって子を産み、育て、パートに出る魔女も割と多いのだ。
レジ打ちのが早い魔女さんだって世の中に入るんだよ。