聖女の進軍 再始動 4
嫌な匂いと言うと、丁度、チーズのカビ臭い感じに似ている。
ちゃんと手入れもしている筈なのに。
隙間とか、ヒレとヒダの小さな溝のあたり垢のようなカスが詰まって。
香ばしいというか。
いや、キツイ、チーズの腐った匂いになってるアレ。
こすり過ぎると赤く腫れてしまって、あとでヒリヒリ痛くなる感じで。
恥垢っていうの?
ほじると指の先や爪の間に入って、あの腐臭がなかなか取れないんだよね。
って、何の話してたんだっけ。
◆
勇者たちの檻がふたつになる。
ショタとデブとビッチでひとつ。
ハゲとジジイとヤサに分かれた。
女っ気を盗られたと、ジジイとハゲが騒ぐ――煩いので、檻は水没させた。
人道?
ハナから無いことに時間も、リソースも取られたくはない。
とりあえず、希望を考慮して。
港町“ガンガガ・ンガナール”へ旅立つことになる――つまるところ、最初の逗留地“エグマン”なのだけど。この辺りの情況は、市長の采配なんかで秘匿されたまま、彼らは何処から何処へ何十キロメートル動いたのかさえ分からないようになってた。
これがまほうの使えない枷の効果だ。
じゃあ、女神の加護とは。
それが問題なんだよね。
実際には、勇者から加護は消えていない。
簡単に言うと弱まっているだけなんだ。
パッシブスキルだけが機能しているから、彼らは死なない身体になっている。
いや、もっと単純に告げると、死んでも生き返る力だけは存在している、だ。
ただし、この力はパーティーの仲間には伝搬しなかった。
6人の聖女たちは売られるか、死んでしまっているから。
いや。
あたしは捕まってないし、ほら元気に車酔いしてる。
「うっわ!!!! ばっちぃーなー! オイ!!!」
ホロの隙間からゲロゲロ垂れ流してたのを、だ。
師匠に発見されてバカにされたトコ。
くそぉー。
いつか別のしょーもない事で仕返ししてやる。
◇
あたしのアホ毛をダウジングロッドのようなアンテナとして、ついさっきまでは利用方法まで真剣に考えてたんだけど。例の遺跡群から勇者と共に邪神教の皆さんが退出してしまったわけで――手薄と言うか、バリアみたいなものまで爆心地とともに移動したわけでね。
蒼炎の魔女が飛ばしまくってたハトが。
あたしの額にダイブしてきたわけですよ。
ったく。
あんにゃろ、なんちゅう躾してやがってくれてるんです。
「怒るな、こんな小動物の激突くらいで」
ヒルダさんが宥めてくれて。
彼女には、ハヤブサのキックが左頬にさく裂した。
彼女はあたしのまな板に飛び込んで、だ。
あたしは後頭部を荷台の床に叩きつけたとこ。
「ぎゃああああ!!!」
ヒルダさん、左頬を赤く染めながら。
「ちくしょー、隣人は左の頬を殴られたなら...右の頬も殴りなさいと――」
なんかひとりごちながら、右頬を空に向けたけど。
なにも来なかった。
「なんだよ、まったく」
ま、あたしもそう思ったよ、涙目だけどな。