聖女の進軍 再始動 3
さて港町“ガンガガ・ンガナール”か、国境の街“シーガル”か。
邪神にするとどちらも“寒く鳴ければ”の条件から外れるなら、どちらでもいいとのこと。
こういう“どっちでもいいよ”とか。
実は決まってるのに、選択させたげるよ的な言い回しする子が多い!!
まあ~。
あたしも、後輩を困らせるのに使った手口ではあるのだけど。
選択肢にない選択もしなかった訳じゃない。
なんて言うのかなあ。
その時々で。
気持ちが変わるというか。
「で、どっちに?」
ああ、聞いちゃった?
青年はすっくと立ちあがって。
何気なく不機嫌に座り直した。
導師たちが怯える中。
『俺なら~港町だね! いや、断然、港町だ!!!』
と、別室から叫ばれた。
あ、そっち。
勇者たちがいる部屋だ。
天井から染み出る雨水を、こともあろうか“これは女神の聖水だ!! 誰が一番惨めに浴びるか競争をしよう”って、遊んでた勇者たちである。ビッチとジジイのセットは、別の遊びに興じてて――監視役の導師数人でビッチの身柄の警護に回ってたりしてた訳だ。
まあ、騒々しい連中である。
「ほう、聞かせて貰おうか、その真意とやら」
◆
邪神とその教団たちの“お祭り”とは別に。
あたしたちの歩みは少し別のところにあった。
提案1と提案2で揉めた挙句、ヒルダさんの強引で卑怯ともいえる手口で、教会は外圧に屈したのだ。
「皇太子殿下に取りなしてもらって、教会への内部監査に入って貰うのですわ!!」
と、らしくない令嬢のような口調。
それを背中越しに苦笑する師匠。
いい兄妹だと思うわ。
「――で、爺ちゃんの記憶を辿るなら。最初に逗留した...謎の多き“エグマン”っていう都市が、一番の手掛かりになるし、勇者の捜索も含めると...妥当かもしれないけど?」
あたしらは既に廃墟を後にしている。
だから戻れないってリスクを担保に。
街の中で見つけた動きそうな馬車と、ソレを覆う事が出来るホロも見つけて――。
百人と僅かな戦力の足だけでは踏破が難しいであろう距離に抵抗するため。
一刻も早く、何処かに逃げ込む必要がある。
それは何故か。
冬が来るからだ。
今ならば数百キロメートルも僅かな時間で踏破できるだろう。
しかも魔獣に襲われても振り切って逃走も容易であるのだ。
「“エグマン”だと聞かされただけで、実際に教会が用意した地図にはその名がないことは、出発前に確認済みだ。だからそこは考慮しなくていい、ただ、ま~。そうなると振り出しと言うか...手がかりは無いに等しくなったなあって...」
と、なると益々、聖女としての勘働きが必要になる訳か。
つまりは、勇者の微かな匂いを嗅ぎ分けるという。
「犬ですね!?」
後輩からそんなことを言われる日が来るとは。
顔を覆いたくなる気分。
「でも、当方。先輩の為ならば、バター狗にでもなんでも成れとおっしゃれば、ぺろぺろ休まず、この舌を上下に動かしてみひめまひょう!!!」
ヨダレ垂らしながらの熱弁、ありがとう。
後輩を別の馬車に移してください。
「しかし、その勘と言うのもどうにも、アテに成らんだろ?」
よく御分りで、ヒルダさん。
「だって、セルコット。お前さんのアホ毛は南を差しまくってる」
うん?
「“エグマン”が何処かは分からないが、ロム爺の保護された街は聖国の北部だった。爺ぃ...もとい元帥閣下の足と危機管理からも、“ランプル”か“メラート”って可能性がある。あの廃都市からは、どれも北に位置するし、確かメラート郊外に遺跡群があった筈だ」
見つかった最初の年は、ゴールドラッシュの如く活気に湧いた。
ただその活気もすぐに治まってしまった。
理由は簡単だ。
その遺跡からは何も出土しなかった――厳密には盗掘が入った後の瓦礫だけで、歴史的とか観光資源とかにもならないガラクタって話なのだ。調査に来た教会の言葉を素直に鵜吞みにした結果なのだけどもね。
さらに、対岸の大陸から渡ってきた、女神正教会も。
ラグナルと同様の火消しに回ったという。
しかし本当にガラクタの遺跡だったのか。
でも僅かに嫌な空気は感じる。
なんていうか、カビの生えた....
雑巾のような匂い。




