聖女の進軍 再始動 2
教会で用意された地図によると。
次の拠点となり得る街は“マトゥール”という。
“アルーガ”から西へ60キロメートルほど進んだところにあるという。
じゃあ、見えるんじゃね?って。
ヒルダさんに言われて、あたしは城壁によじ登った。
魔王ちゃんからは――
「わたしが抱えてあげたのに」
――すみませんが、聞いてませんでした。
◇
誰だよ、見えるんじゃねとか言ったの。
魔王ちゃんも背伸びし続けてるけど、見えない――いや、彼女は飛べるんだから。
なんか突っ込むと、泣かれそうなのでやめるが。
地平線を睨むこと20分余り。
なんだか肌寒くなった感じがする。
「ヒルダさん、見えなーい!!」
再び、よじ登った城壁から転がるように落ちた。
魔王ちゃんから、降りる時のエスコートが無かった。
腕を伸ばして精一杯のアピールはしたんだよ。
こう、ぷ、プリーズって。
「ミロムさ~ん、魔王ちゃんの手ぇ~先が冷たくなった~」
あたしの安息の地が蹂躙された気がする。
ミロムさんは魔王ちゃんに優しく抱擁して。
あたしの居場所が。
「御心配無用です! この紅が」
両腕を開いて――。
「冬が来るんだろ、ここら辺は島大陸の北になるし。ここは即決がものを言うと思うんだ」
後輩の手、いや腰から地図を奪う。
ヒルダさんが師匠の背中で地図を広げ、
「ロム爺はどう思う? ここの冬だが」
若い頃は方々を武者修行して回った身だけども、この島大陸には夏か秋くらいしか渡ったことは無い。
「冬の経験はないな、廃墟だった家屋の造りからしても豪雪とも言えぬようだから。邪神のマイナス要素で何があるとも知れぬ...主力だけでも一気に踏破したいところだ」
爺ちゃんも言葉に地図卓になった師匠も頷いた。
動くと見えにくい地図が余計に見えないんだけどもね。
◆
邪神と青年は、棲み処を南へと移してた。
封じられた遺跡には神秘とされる力は既になく、邪神教の導師たちにとっても安息と言う場でもない。
しかも冬が来ると言うので、
「寒いのダメなんだわ」
と、邪神が導師たちに告げてた。
候補地は国境の街“シーガル”。
もうひとつは、港町“ガンガガ・ンガナール”...ちょっと愉快そうな名前だけど。
舌を噛む呪いの街でもある。
名産は“オオワタリガニ”。
茹でるもよし、戦うもよし、仲間にするもよし。
体長は7メートルをゆうに超えて。
総重量900キログラム。
大きなハサミと鋭い足先からの突き攻撃は、フルプレートアーマーもひとたまりもない。
女神の加護ごと突き崩すという話。




