世界を創った者 5
戦闘部族“ゴルゴーン”は、竜を統べる少女神に献身することを誓った種族だ。
かつては竜神としての権能を持ち、多くの端神を食らってきた厄災の権化。
世界樹を己の身ひとつで捩じ切らんとした、馬鹿者とか。
あとで、害虫駆除業者の手によって灼かれてる。
神々にケンカを売ったヨルムンガンドも。
相打ちになった男神の功名を、例の乙女神が掻っ攫ったため。
今、この世界は彼女ひとりが独占しているのである。
まあ、ゴルゴーンたちの口伝によれば、そういうことなのだという。
「公表は?」
興味本位でナシムに尋ねてみた。
これはひとつの宗教が生まれる兆しになる。
「口伝というのは、最長老から巫女たちにのみ伝えられ。やがて私たちの次代に同じようにして継承されていく。そういうものなんだ!! 口伝というのは...」
繰り返しになるからナシムの袖を引っ張ったわけでなく。
口伝の門外不出性に対して、マディヤはナシムの自慢げに語る口に人差し指を載せて止めた。
「それ以上言ったら、封じてた意味が薄れる」
神さまの言う通り、てか。
アグラはこれまでの流れを臓腑に落とし込んで。
「口伝は俺が他に打ち明けなければ、一定の効力が回復するもんかな?」
乙女神の神アンテナにマディヤが引っかかるのを防ぐためにも。
公は不味い。
「しかし、乙女神はそんなに怖いのかね?」
実感がわかない。
ま、高次元の生き物だからね。
あたしだってチャンネルが繋がってなかったら、財布から金が逃げてく現状を乙女神のせいにして喚き散らしてたに違いない。で、女神不敬罪という罪状により、教会の独房へと放り込まれるわけだ。
やだ、怖い。
「天界のチャンネルは蛇口の壊れた水面所の如く。いつも色んな喚き声が駄々洩れで、例えば神格にちかい何かが排水溝へと流れて行っても。乙女神にはソレが何だったかまでは知覚できないと思う。意外とヌケてるんだよね、あの人...ただ、」
マディヤに力強さが戻った気がする。
竜種ナシムの献身が賜物か。
あるいは、お腹が空いたか。
「世界を灼き、神々をもすべて駆逐せしめた魔女。名前を告げなければ力を封じていられる、堕天騎士でもある地獄の住人には要注意!と、ここまでかな...」
くねくねと上半身が揺らぐと。
ふにゃっと横に萎れていく向日葵の如く。
昼食も結局取れずに、夕飯のみ楽しみに寝込んでしまった。
汗を拭くといって上半身だけ半日、放っておいたせいだ。
ナシムが拭くだけ、拭いたらマッサージしますからとお触りし放題だった責任だ。
結果、彼女は風邪を引いた。
生き神だって風は引く。
いや、まさかくらいの驚きがナシムにもあった。
その即日に、各地へ情報収集に従事しているゴルゴーン族の者たちへ『マディヤさま、風邪をお召しに』と。