世界を創った者 4
世界の創生は神話として語り継がれているものと、教会が手を加えて経典に落とし込んだものがある。
口伝は少数部族の口から口へ、長老が子供たちに語り聞かせる門外不出。
経典は、そもそも“終末論で他者を煽って儲けるためである”から、わりとオープンである。
ただし、前者の語りに部族ごとの特色が入る傾向が強く。
世界の常識としてから見ると、小首を傾げざる得ないことが多々ある。
例えば――
女神の数え方だが。
普通であれば、“柱”という。
この世界はひと柱の神によって支えられているので、単一神。
人々からは“乙女神”と、呼ばれている。
だが、例外に。
燕尾服を戦装束だという戦闘部族“ゴルゴーン”らは、我らの神は大地と水を司るものだという。
全知全能ともされる乙女神には得意、不得意はないとされるけど。
ほら、こんなとこに矛盾が。
◇
アグラの住んでた東の最果ての国は、鬼人が国を統率している。
見た目は人種族と大差なく、法力という特殊な力で肉体を強化して戦いに挑むのだけども。
この国は少なくとも3、4世紀は戦い明け暮れている。
いや、だだっ広い大地の上で大小様々な国が勃興しては、隣国に潰される日々。
古竜のような蜥蜴を騎獣に変えて――
ここが世界の中心だと思って駆け抜けてた日々が懐かしい。
「アグラは、郷に帰りたい?」
らしくないマディヤから、気の弱そうな声がかすれて聞こえた。
少しオドオドしている様子がある。
仮面を被ると、心に一枚鎧を着ることができるという。
おそらく彼女の変身というのは、気の弱さを隠すようなものだろうか。
「そんな訳がないでしょう! マディヤさまは強いのです!!! その気になれば、ミジンコの命など簡単に消し炭、いえ、藻屑と消えて水槽隅の汚れにしかなりません」
ひどい言い方だ。
指先を加え、ますます困り顔のマディヤがある。
ナシムの言を諫めたいらしいけど。
勇気が足りないようで。
「巫女なんだろ? お前が主神を困らせてどうすんだよ」
モジモジしてる彼女に抱き着くナシム。
渡さないぞ的な威嚇なんだけど。
それは逆効果だ。
埒が明かないと思ったアグラから、
「結局のところ、青年や少女、大人の女性的な魅力も放つ... 旦那は一体どんな、いや何者なんだ」
ナシムは向き直り、
彼女を背において守りながら...
「神です! 乙女神とは姉妹に当たる、双子神です」
ほ~ん。
いあ、なんとなくそんな雰囲気に巻き込まれた。