世界を創った者 3
燕尾服が戦装束だというナシムは、マディヤの変質にはさほど驚きもしないで。
「マディヤさまは、マディヤさまです」
当たり前のような事を吐いている。
甲斐がしく世話を焼いて、背中を流し、脇から下乳の汗を拭う。
ついで拭った手拭いに顔をうずめてた。
「この変態娘が!!」
「なんです、急に?」
邪魔しないでください。
吸引して成分の補給を、と――。
「旦那が旦那だってのはオーラでわかる」
「なるほど怠け者でも見える色があったんですね」
沈黙は時として悲しくなる。
「だが、ありゃ元来の姿じゃねえのか? バランスが崩れてるにしても。そろそろ体内を巡るオドが元の回路に流れる頃合いだってのに。......丹田を刺激しても、消費量に応じた回復が見られねえとすると」
「ミジンコの癖に勘がいいんですか? それは驚きです」
やっぱり何か知ってるサイドだった。
◇
「丹田?」
また、其処からか。
アグラの不機嫌そうな色を見て、マディヤがやや凍り付いてる。
そんなに長い付き合いじゃないけど。
和装の男は、青年の姿だったマディヤがこの島大陸に渡る時に。
護衛として雇用した強者である。
つまり見惚れた訳だ。
腕っぷしと度胸の良さに、だ。
「丹田はな、こう下の腹の方の」
「下っ腹にある子宮?」
否定するのは何回目だ。
首を横に振って――と、よく見れば沐浴中の所作の最中。
よく熟れた乳房は瓜のように瑞々しく。
桃色の艶やかな花が、二輪。
「いや、そこは丹田な」
「どーでもいいですけど、ミジンコ?! 見過ぎですよ」
燕尾服の世話焼きどもと、マディヤの関係をもう一度正す必要がある。
そして、彼のいや、彼女の体質に対しても。
秘密結社に勧誘され、時代の宗主となるべく教育が施されたのは。
正直、あまり記憶が定かではない。
ナシムの一族はとある巫女の者たちだという。
天界を支える柱、まあ、つまり乙女神とは別の面の神とでもいうか。
「ぜんっぜん違う、女神さまです!!」
水と大地を守護する女神ってのは、島大陸でも聞くことは無い。
「まあ、待て待て。そう食ってかかられると困るのは、旦那の方に成っちまってるぞ? 抜け駆けして旦那のもち肌にペタペタと、不謹慎にも障りまくってセクハラ働いてたお前さんだ。どさくさ紛れに乳でも掴んで揉みしだくつもりじゃあ、なかったろ」
図星めいた取り乱しようだ。
「水と大地の守護となると、少なくともその女神さまは竜を使役できるか、眷属を持ってるって事に成るんだが? まさか嬢ちゃんは鱗の無い竜人族だったりするんかね?」
「え? リザードとか蜥蜴と混同ですか」
唾を宿の窓から外へ吐いて捨てた。
軒下の方では上階から唾が降ってきたと、大騒ぎになってたようだけども。
アグラとナシムのふたりの間でも静かなバトルが...起きてた。




