世界を創った者 2
乙女神には二面性があるなんて言う神学者がある。
荒ぶる神の代表格“竜”を御する全知全能ポジションと、激しく憎悪に怒り狂う『勉強したの?! 言い訳はいいから宿題、今日中に片付けないと困るのはあんただからね!!』と、烈火のごとく吠え散らかすお母さん的ポジションのソレ。
後者の方は、理由なくいきなり叩かれたり。
あるいは小言を多くぶつけてくる理不尽極まりない女神像である。
ま、提唱した神学者自身の勝手な印象なんだけどね。
口伝として残るかつての世界からの記憶が。
それらを裏付けているようで。
◇
馬車に揺られる旅もまだまだ道、なかばのところだ。
牧歌的な長閑すぎる、いや、オーバーオールにと神学生みたいな詰襟のある、ダボついた長袖のシャツに着せられているマディヤの姿は新鮮だ。手首の絞りが無かったら、短くなった腕の長さに負けて...
幽霊みたいに袖を垂らしてたかもしれない。
「それはそれで面白そう」
アグラのつぶやきにナシムが反応。
鋭い視線が突き刺さる。
さて、胸元に麦わら帽子を抱えた、マディヤは錬丹法という息継ぎをしている。
遠く遠く...くっそ遠くの東の端っこ。
鬼人が治めるという国で流行した魔法とは違った、修行法だが。
オドを燃やして身体強化や魔術回路を成長させるというものだ。
5人1人は覚醒するんで、まるっきりアホな事ではないらしい。
広めた鬼の名は。
役小角。
どっかの高名なる僧兵らしく、小指から気砲(おそらくは魔法・エネルギーボルトだと思われる)を放って人も兵も退けたという話。こういう伝承は、まるっきり大嘘だと思っても差し支えはない。
恐らくは本人が酒の勢いで喋ったクチなのだろう。
さて。
いかにも線が細くなった。
いや。
細く見えるのは手足の方。
腰やら胸やら、肉付きの良いところはぽちゃっとしてて。
「はい、見過ぎでダウト!! 死ねや、カス、怠け者!!!!!」
アグラに飛び掛かり、暗器で仕留めにかかるナシム。
「待て待て」
タップが入ってる。
「マディヤに、い、い、、、」
異変?!
「丹田に気を送り込んでたら」
うんうん。
臍の下部にあるという丹田、別名はチャクラと呼び...
オドという気を流し込んで自らのバランスを保つという訓練なんだけど。
ふたりにも、きゅぅ~って可愛らしい腹の虫が鳴いた。
「こ、これで?」
「言い訳あるか、そりゃ」
アグラの顎をかかとで蹴り上げ。
「マディヤさま、それはお腹が空いたという合図です!」
◆
天上の宮殿では年越しの大掃除が始まってた。
人々の窮状とか、各地の紛争についても普段以上にどーでもいいと思ってた。
そんな乙女神も小さな祠で足が止まる。
例の二面性の話。
祠はそんな乙女神を封印してたものだけど。
中を覗いても、御神体がどこにもない事に今更ながらに気が付いた。
「これ、百年前に天日干ししてて忘れてたヤツだ」
やっぱ、あんたかよ。




