世界を創った者 1
マディヤの変化は本人だけのもので。
たわわを細腕に載せてみせて、
「存外、糞重いのな?」
肩にではなく、首が凝る。
なんかこう、重すぎて自然に猫背になる感じで。
いや、背筋を伸ばすと付けてないのがバレるんで、猫背になる。
「――もう」
ナシムが自分のことのように恥ずかしがる。
わかる、なんとなく理解はできる。
だって付けてないもん。
ナシムはマディヤに誘われるよう、肉塊を揉ませてもらった。
悔しいけど、一族の誰にも勝てる者がいない気がする。
「ああああああ」
「なに、吠えてんだよ」
アグラの細い目。
視線に気が付いたマディヤは彼の大きな手をひとつ取って、自分のたわわに当てた。
ナシムの目端に“怠け者”が見える。
「ちょ?!」
「ん、まあ。そうだな...」
ナシムを見て、アグラの溜息。
「それは女の子に失礼な態度だぞ、アグラ?」
ナシムの燕尾服は己を律する為の制服であり、戦装束でもある。
隠しようのないシルエットから暗器が出るから、意表が付ける。
暗殺者と、気取らせないための装束。
良く出来ている。
「いえ、あ。まあ、そうですけど...マディヤさまも、そのお心遣いは、ちょっとカチンと来ますのでおやめください。そ・れ・と...いつまで怠け者に胸を揉ませているんです?!!」
それを言うナシムも手が左乳から離れられない。
「うん、ふたりとも...おっぱい好きだね」
なんとなくバツが悪くなった。
◇
秘密結社の知略担当である賢者ブライ・ボルの排除。
「で、旦那。その...変わり果てた姿ですけど」
マディヤの護衛として、本人からオファーを受けたノラの剣士。
それが和装の侍アグラだ。
東の端にある鬼人の国から流れてきた者で、場末の用心棒だったのを知って知らずかで。
声を掛けてきた時は、こう小動物のような愛くるしい雰囲気があった。
時々、姿が変わるようなことがある。
マディヤの従者は、はじめて遭った時からナシムがあった。
「どうしようねえ、なんか戻り難いね」
聞いてねえ。
「乳房を支える帯は、この不肖のナシムが全力で整えて見せますので、その他にご入用は?!」
このやり取りに男であるアグラは加われない。
いやさ、六っつ上に姉があって、ソレが垂れないように補正してたのを思い出して、だ。
腰巻みたいなのをと提言したら、ナシムにグーで殴られた。
以後、振り向き禁止となる。
「旦那、宗主から継げって言われてたんじゃ?」
壁に向いて、いや、壁に話しかけてる。
もうそっちにマディヤがいるように暗示さえかけて。
「ボクは見聞を広めると、彼に告げただけで。秘密結社なんてぶっ壊そうと思ってるだけだよ、まあこう言うのも何なんだけどさ。百害あって一利なしって思わない? 世界の裏から人々を導き統治するなんて、傲慢以外になんだろう」
座り直して、揺れる乳。
壁にうっすらと浮かぶ彼女の影。
もう美の女神でいいや的な美しさがある。
「んーっと、秘密結社らの経典はさ、後付けなんだよね。教義は聞いた、野望も理想も知ったけど、1ナノミリも心が傾くことが無かった。むしろ反吐が出る」
上辺だけの感情は常に見せていた気がする。
アグラに話しかけ、微笑み、涙を目端に浮かべて馬鹿笑いした時も。
あれは、無表情の上に被った仮面。
でも、今のは――。