乱戦の中で、 3
最西端の攻略を断念したバウトリィ騎士男の軍。
守陣の形を変えながら後退して、追撃がなくなる頃合いで一気に転進した。
その足は脱兎のごとく。
物資のすべては騎兵の馬へ。
騎士や歩兵、将軍さえも自らの足で走った。
これが用兵家・バウトリィ騎士男の策である。
さて。
公国軍の本陣あとだけども。
被害状況がカールトン伯の幕臣たちによって詳らかされた。
軍俵米の備蓄は絶望的で、怪我人を癒せる治癒士の多くが死んだ。
「例の魔術師らは?!」
戦犯で罰でも与えなければ、割にも合わない大損害である。
踏み殺された公王の死体のこともあるし、あれらの魔法使いがあれば、奇跡のひとつもと考えた。
「いえ、戦死したのか或いは」
逃げていてくれれば、見つけ出せばいいことだ。
ひとつ希望が見える。
公国を陥れた者として裁くことができるからだ。
「バウトリィが戻り次第、撤退する。全軍の半分以上が機能マヒ、散り散りに逃げた同胞も探せない、不甲斐なさに言葉もない。だが、ここはひとりでも多く故郷にたどり着く必要がある!!」
◇
一方、公国でもひとつ大きな変革が起きてた。
魔術師だけの帰還による“ざわつき”だ。
空間転移という御業でもって長距離を跳躍した彼らの前に、レディフェンサーという女性騎士が立ちふさがったのだ。その陰にマディヤの姿見え隠れする――「なんじゃ、お主も来ておったのか?!」
出迎えご苦労って言葉を掛け損なった。
穂先や、剣の切っ先が魔術師だけに向けられる。
「何の真似じゃよ? 我らは公王の命にて、援軍を」
「どこからです?」
向けられるのは、関心のない視線。
これはマディヤからのもものだけど、女性陣からは射殺すような強い殺意。
「だから、公王が」
「いえ、今の公国の何処から兵を抽出するというのです?」
見渡せば戦えそうなと言えば、女性騎士位なものか。
これに国内から女だけで兵を。
いや、それはもう国じゃなくなる。
「この国は女王の国、あなたがたは害虫でしかない」
賢者の耳元で囁かれたように感じ、振り向く。
槍が胸を貫いてた。
血が沸騰するように熱く感じる。
痛みよりも熱だ。
「どういう?!」
「お前だって、彼らを利用したのだろ?!!」
賢者ブライ・ボルが吠えて、マディヤという青年を探す。
目で、身体を捩じって、槍で突かれて剣で切られても探した。
棍棒で殴られもして。
目に入った血の彩で世界を見る。
「そこに居たか、マディヤ・ラジコート!!」
彼の目に映るの青年ではなく、大人の女性。
目を疑うような眉目秀麗さがあった。
◆
マディヤは、軽業師かな?くらいの跳躍で賢者殺害現場から退いた。
彼女が宿に戻ったのは朝日を迎える頃だ。
ひと晩。
頭を抱えたまま、路地をとぼとぼアテなく歩いてたという。
「なんでそんな?!」
燕尾服のナシムが心配そうに飛び込んできて。
気が付く。
おやおや。
「なんか、大きいのが」
「うん、戻らなくて困ってる」