串刺し侯、ハサン 2
ルセラ砦の中にシグルドさんと、アイヴァーさんがあった。
砦の中というよりも、街側にある。
兵士たちの家族や軍属の者たちが、市民の誘導に努めている。
地下シェルターとか。
あるいは教会へ誘っていて。
誘導に駆り出されていない軍属は、厩舎や倉庫などの屋根にふかれた萱を剥ぎ取っていく。
これに火矢が当たれば燃料になるからだ。
それでも燃えることはあるけど。
消化の妨げになるものは予めとり壊しておけば、少なくとも銃後で取り返しのつかない事には成り難い。
とは言っても、皆が不安だから壊して回ってるんだけども。
◇
砦を半包囲する侵略者たち。
平原での戦いは1日と待たずして、藩主国中に駆け巡って。
宗主国とその声、権威に集まった烏合の衆の敗北を知らされた。
国のトップはなんとなく分かってたみたいだ。
征伐軍だって言った性格の合従軍だったのに、宗主国の精兵は藩主国に集結してた。
鍔迫り合いで済めばいいかな位の軽いノリだったようだけど。
「予測はしてたけど、的中するとは思ってなかった、と?」
櫓の下にある望楼に入った城主と、騎士団長がある。
ともに幕僚の数名と、軍使たち。
「思った以上に相手方も兵が余っていると見える」
ふふんって鼻が鳴る。
とは、兵糧の問題だ。
城攻めともなれば、相応の準備が必要になる。
平原の中に孤立しているように見えるルセラ砦だけども、よくよく周囲を見渡すと。
監視塔みたいな施設が点在してた。
常駐させてある兵力は、恐らく100人前後。
大軍から見れば取るに足らない戦力にも見えるけど。
数字で量ることは出来ないのが戦争だ。
ルセラを中心に両翼へ伸びる、監視塔から兵が集結すれば――。
「砦の半包囲は、これ以上側背を向けることが出来ない恐れだろうなあ。この砦が突き出している意図を察してる奴が居るって事だ、なかなか食えないもんだな」
と、まあ。
短槍を傍らに立て掛けて、顎の下を拭った。
皮手袋ごしだってのに無精ひげの、ごつごつ感が指先に伝わってきた。
「こりゃあ、随分と男前に成っちまったもんだ」
髭だ。
剃れるうちに剃っておくべきだった。
戦に負ければ、首級は胴を離れて検分されることになる。
「また、縁起でもない」
「そうは言うけどもな、城主としての身嗜みをと...従僕している者からも」
頭髪を掻きむしって。
両眼を覆った。
「いあ、そうだな。考えるべきは其処じゃない...さて。どうやって守るかだが」
守備側としては籠城。
備蓄食料は半年は持つし、街の方なら1年ちかく持つ。
ただの睨み合いでなら心労とプレッシャーを加味して、4,5か月といったところか。
かつての歴史から教訓とするなら、もっと粘った事例だって。