戦場の騎士伯令息 3
戦場では強硬派に押し切られたけども。
王宮にある妃と姫さまがたは、後方支援と称して各国への外交努力に力を注ぐ。
マディア一行も、この政策を支持した。
現場と後方での足の引っ張り合いが、水面下で始まったという訳だ。
◇
軍最高司令官たる、公王さまは全軍に。
“ルセラ”砦の攻略を命じられた――サマースティプル平原の北方には、みっつの都市と砦がある。
1)ルセラ砦
常駐する兵力は3000人と多く、その4倍から6倍近い市民が暮らす街が併設されている。
2)ハドラプール
北方城塞都市。藩主国の北の守りだが、仔細不明。
3)サライラン
ルセラ砦の次の関門で、第二都市。
4)マッファー・タゼプル
藩主国首都にして最大の城塞都市。
平原の戦いには参加してなかったって話だから、宗主国の精兵も含めここに全軍あると思う。
甲冑を脱ぎ、ボクらは幕舎にて半日過ごす。
小隊長ことアルファス卿の戦果は名のある武将首19と抜きんでたとこで。
上級部隊から褒章が出た。
それが半日休とラム酒の樽ひとつ。
「首級の返しがこれですか?」
副官たる騎士も健在で、わたしも五体満足に怪我一つない。
「まあな、こんな戦場で階級なり権限なんぞ上がっても意味は無いしな」
「そんなもんですか?」
経験の浅いわたしにはそう見えなくて。
胸鎧は脱いだけど、小手や鎖帷子、腰と脚鎧は着用したままだ。
だって脱いでも一苦労、着るも一苦労な装備品だから。
いちばん窮屈な胸鎧だけ脱げればこれでいい。
ま、懸念すべき下の病気は待った無しなのだろうけども。
「おっと、俺たちの働き手さまが、ご立腹だぞ」
囃し立てる兄貴分たち。
配属された時は、歯牙にもかけてくれなかったけど。
戦場では一転。
まさに、わたしを中心に乱戦を駆け抜けたような。
そんな雰囲気になってた。
それはそれで認められたわけで嬉しいけど。
わたしのお兄ちゃんみたいになってるのは何故?!
「はは、ご立腹か」
「あ、いえ」
「それとも出世して俺が、隊から離れるのを待ち望んで?」
意地悪な言い方だ。
もっとも頼りにしているのに。
分かってる癖に。
「冗談だ、冗談。出世しても、与る小隊がひとつ、ふたつ増えるだけで変わらんが。今、この状況において現場指揮官を戦場から遠ざけるような愚行は侵すまい。百人を可不可なく動かせる人間が、十倍を同じように動かせるとは限らん。それは用兵であって指揮じゃないしな」
どう違うと顔に出た。
「まあ、用兵は勝つための大まかな指針...いあ、到達点を要所に置いて。下絵を清書するようなものだ...俺にはそんな絵は書けん。せいぜい部下の尻を叩くか、蹴り飛ばすような指示しか出せんよ」
それが指揮のようだ。
わたしの背を押し、支え、褒めちぎる。
人が動く切っ掛けみたいなものを与えるような存在。
理想な上司。
瞳を輝かせる、わたし。
「隊長、うちの姫騎士殿が恋してますなあ」
姫騎士って。
わたしは男の子...まあ、性別上はだけど。
「やあ、参ったなあ」