武王祭 1
大陸全土から人々が集まる。
国を代表する剣豪、開催国を牽制するための隣国や、女神正教会からも神殿騎士などが参加している。
開催期間は20日あたりで、メインである武術大会は例年通りであれば、10日より後ろになるだろう。
「殆ど、祭りの方がメインなのだな」
マディヤも武王祭は、はじめてだ。
「引き籠っていたからな、こういうのは確かに新鮮だ」
大館主の目からは、青年が対人能力に欠けたタイプには見えない。
引き籠りがブラフか何かで、或いは隠語じゃないかとも疑ってた。
「どうやら未だ信用されていない様子だが、こちらの世情には疎いってだけにしておこうか?」
ってマディヤは、疑われていると思しき目に応える。
老人も、見透かされたと思って――「いやいや、ここにきて二心があるわけではない。い、いあ、全くいらぬ詮索を抱いてしまって申し訳ない」
老人の低姿勢は本音からくる。
青年マディヤに茶を淹れてた、少女執事が戻ってくる前でよかった。
もしも、彼女がその場に居合わせていれば――
腰に提げた剣が空を切っていたかもしれない。
《ナシムは忠実だが、忠犬過ぎるきらいもある》
「ところで、件の武王祭なのですが、何の謂れがあるのでしょうか?」
おっと、そっから。
大館主の目が細くなる。
別室から鼻歌交じりに執事が帰って来た。
和服の男は、市内観光中で留守。
少女執事が入室すると、妙な空気になってた。
◆
武王祭――5年に1度行われる、武人にとっての誉れ高いお祭り。
ざっくりいうと、当代随一の武人を探し出そうって話で――どっかの時点で、勇者選抜から“地上最強の戦士決定戦”とかいう方向に流れていった。で、結果、商魂逞しい商人たちが出張ってきたら、こんな騒々しい祭りになりました。
どんな時も商人さまが引っ掻き回すのだ!
あ、でもね。
パーティに商才ってスキルがある仲間がいると、便利なわけ。
「王都でぶらり剣術修行でもって寄ったら、何でセルコットさんたちの買い物に...付き合わされてるんです、ボク?」
ポール君です。
剣術修行が嘘だってのは分かってる。
盗賊ギルドに寄ってから、街中をぶらついてたら彼とばったり出会った。
って、偶然なわけがない。
「旅は道連れ...」
「そのくだりはもう、終わったんじゃ」
終わった?
「ええ、もうサブタイトルは“武王祭”に変わってますね」
って後輩が告げてきた。
そっか、
「でもさ、商才持ってるのポール君だけでしょ!!?」
にわかに険しい表情になった。
取得スキルは、身内でも内緒にしているらしい。
ま、知られれば...あたしたちと同じことを、団員同士で迫るからだ。
「トッド、売ったな!!」
彼はあたしの背に隠れる。
男の子を隠せるほど大きな背中じゃないけど、
「いやいや、トッド君は無関係。あたしが“鑑定”さまでのぞき見に成功したから、ポール君が来るのを待ってただけ。すっごい偶然に見えるでしょ」
でも、偶然じゃない。
「姐さんの賽の目は、姐さんの感情で、確定の未来を引き当てるんです! それも高確率の結果を引き当てる...チートみたいですが、代償もそれなりに大きいんですけどね」
ポール君の目は点だ。
ああ、わかってるその表情はもう、通過済み。
普通に聞けば、ただの痛い子だ。
「じゃ、ちょっと振らせてください」
「いいけど...何か賭けるものある?」
で、目が細くなる。
ああ、その目もゾクゾクする。
疑ってる、疑ってる。
もっと、その目で見て!!




