肩ロースが食べたい 1
異界の魔獣こと、お犬さまだが。
凄まじい反撃に出て...。
エルダーク・エルフさん4人を退けてた。
多分、邪神とのパスが繋がった結果だと思うんだよね。
神獣としての片鱗が漏れ出たのかも。
というチートを身に着けたために、エルダーク・エルフさんらの奮戦も空しく戦線離脱。
◇
ああ、狗の癖に勝ち誇ってやがる。
そんなのを見せつけられた“魔王”ちゃんが何するか分からんのに。
ほら、キレてるよ。
ボディの素体は、あたしと同じだから。
色違いの短い髪を掻き乱しながら、
「あんの糞イヌが!!!」
なんて暴言が。
まあ、その、言い方ですよね。
女の子なんだから。
宥めてあげたいけど。
あたしは目の前の“牛”になぶられてた。
「いつまでも遊んでられないんだからね?!」
あ、それ。
あたしに言ってるよね?
「勿論、この活きのいい具材に言葉なんて掛けないって」
あーうん。
フレッシュトマトも見慣れると。
悲鳴じゃなくて。
残念そうなうめき声に代わってて。
ミロムさんも心配そうな表情、態度、気を揉むような雰囲気さえもなくなってた。
...だよね。
不甲斐ない。
分かってる。
でも、ぶへつ!!!!
大見栄切った友人たちには悪いけど。
あたしの視界は真っ赤です。
やべえよ、何も見えんのだけども。
◇
片手の指を交互にペキ、ポキと鳴らして。
パンツが丸見えなドレス姿の魔王ちゃんが尖塔を捉えた宙に浮く。
狗の方は、彼女の傍に何もないことを前足で探ってた。
「ないよ、浮遊魔術だもの」
狗には声を掛けるんだね。
ちょっと不思議そうに見てたら、叩き伏せられるあたし。
魔王ちゃんからの惚けた視線が痛い、痛いですー。
「どうして命令が聞けなかったのかな?」
命令と言うのは、食料の調達とエルダーク・エルフとは喧嘩しない、だ。
食糧は調達したと強調して。
眼下に落ちてるエルフの方は、勝手に彼らがちょっかいを出してきたんだと主張した。
「そう。あんたの言い分は分かったわ」
握ってた扇を閉じて下から上へ振るった。
風圧が奔る。
狗の背にあった雲が真っ二つに割れた。
どうも、空間も歪んで見える。
痛みはない。
ただ、左肩からなんというか向こう側がスースーする感じ。
兎に角軽く感じたので、首をゆっくりと。
恐る恐る視線が左肩へ向けられた。
あ、ない。
声が出ない叫びってのはあるようで。
左の前足が肩からごっそりなくなってた。
「ところで...」
魔王ちゃんの顔が怖いなあって感じつつ。
「あんたの肩ロースって美味しいのかしら?」
こわっ。




