王都ハイドラ
大陸の中央には“コンバートル王国”という国がある。
国力、武力共に盛況で、人々の気質も働き者のしっかりさんが多い。
また、この国は“魔法”の伝播にも力を入れてた。
戦争向けの攻撃的な面ではなく、所謂、生活に根差した面の方に注目した。
今のところ市民から、スクロールなしで魔法を使用できる者はいない。
それでも素質があるは大きな利点だ。
と、同時に王都以外では、魔法の二文字が遠ざかる傾向にある。
「王都にだって、魔法が使えないって人が...いるよね?」
あたしの問いには後輩が、女神のような微笑みで答える。
「ひとつの家族に、ひとり以上の素質持ちがあれば、王都居住資格権が与えられます。できれば両親か、その子供にも受け継がれていると良いのですが」
「えっと、あれ? 素質なしの場合だと」
「追い出されますよ...ボクら冒険者や協会が。コンバートル王国での活動が認められたのも、そもそもでいえば“魔法使い”だったからです。この国は魔法の大家に、成ろうとしているんです!!」
それが悪い事じゃないと、トッド君も言う。
「でも、さ。逆に考えると為政者なら怖いんじゃない? だって生活魔法っても、レベルキャップが為されてても火は等しく危険な術だよ?」
悪用するレベルの差かも知れない。
煙草に付ける火種が、大火を引き起こせると思えないよう、無意識下で市民には枷があると知る。
「マジか!!」
「素質持ちには、王国の教育機関で、精神支配を受けられます。これは強制なので王都から逃げる事は出来ません! ま、市民だけの話ですが」
王都、怖え。
生活魔法が使えるって事は、有事の際は正規軍の一部として徴兵が可能ってことになる。
他国が何十年と費やしている魔法兵団が、だ。
王都の市民にスクロールを持たせるだけで、兵隊に成る。
しかも、精神支配を受け入れてるから、王国の言いなりという最強のカード。
「狂ってるじゃん」
あたしの手をにぎにぎする後輩。
ベッドの上で胡坐をかく、あたし。
「見えてますが」
「別に今更」
「トッド君にも?」
「...い、い、まさら...」
膝をそっと閉じた。
彼の...が気にならなくもない。
が、
「で、剣術大会だけど」
王都ハイドラでは2回目の開催。
魔法剣士が各国から集まるイベントだけども、どちらかというと各国の牽制に、利用されている場でもある。
特にコンバートル王国に対しての風当たりは強く――。
「そりゃ、抜きんでる武力ですからね。今の国王は国境線という線引きには煩い人のようです...」
とは具体的に。
トッド君曰く、この国は戦争がしたいと匂わせているという。
ちょっと、あぶねえな。
治安が悪いと思ったら、そういう事?
「中央の政治を耳にして治安が浮かぶとは、姐さん凄いですね!」
これは後輩の作戦なのだろう。
あたしに抱き着くタイミングを見計らってた。
そんな気配があるし。
抱き着かれるあたしをガン見するトッド君も、ちょっと怖い。
《今夜のオカズ、来たー!!!》
トッド君に親指を立てる後輩。
なんの合図だそれーぇ?!
◆
青年マディヤは、上段に剣を構えると――ひとふりで甲冑を叩き割る。
「似てますが、真似ているだけです...旦那さま」
と、すぐさま少女執事からのダメだし。
「何が違うのだろうか」
「帝国式一刀流は、一瞬の躊躇いなく敵を屠る殺人剣。...通常、相対したら間合いとか、出方を読み合ってしまうのが性質」
「それは、常に退路の確保か?」
マディヤの言葉に即、頷いた。
「彼らの剣筋は悪く言って“猪突猛進”。よく言えば、一点突破に活路を見出すといったもの」
即座に死人となって飛び込んでくる剣客を前にして、自分自身も死人に成れるものは少ないという。
故に剛の剣だと言われる。
対物理攻撃の無効化にも等しい魔法でさえも、帝国式一刀流は、一切合切帳消しで叩き潰す。
「やはり怖いな」
「でしょ、あんなの化け物でしかないんですよ」
って、少女執事は腰の剣を抜く。
彼女の最早業だ――柄に手を置いた瞬間と手放すまでがほぼ同時に見えた。
「ボクからみれば、お前の剣も存外、人ではないに思うのだが」
的の鎧は、真一文字に切り落とされてる。
「しばらく振ってませんでしたから、師匠に怒られそうです」
そんなものかと、青年マディヤは苦笑してた。
彼女は、朝食の用意が出来たと、彼に告げている。




