自由都市・東の都“アルーガ” 5
素通りされた悪魔たちの焦りは、パスの繋がった青年に押し寄せる。
数百もある低級な悪魔たちの、たぶん誰か。
個体名は無いと思うけど...
その中の個体の目を通して、
《な、なぜだ?! なぜ、素通りが出来る!!!!》
って手汗の酷い拳を再度、握り直しながらつぶやいた。
みるみる遠ざかる聖女一行。
あ。
あたしらは聖女一行だよ~って叫びながら、ずんずん歩いてた訳で。
邪神にも聞こえるように宣って。
後輩から殴られた。
「先輩は、バカですか!!」
むむ、酷い。
ミロムさんに泣きつこうと腕を伸ばして、払われた。
よよ?!
「なぜ、自分から正体を?」
こっちはヒルダさんだった。
ミロムさんは獲物の手入れ中である。
◇
進軍は、街が夕日に赤く照らされるとこで止めてた。
野宿ではなく。
「――正体なんて気取らんでも、相手方にはすでにバレてるよ」
魔王ちゃんが、エルダーク・エルフの4名を指さす。
さされた本人は満面の笑み。
魔王ちゃんの意図は組まれてるのか?
「えっと、まさか...」
殴り足りなかったのか。
後輩があたしの腹の上に馬乗りになって――「角笛ですか?!」
「そう、その通り」
なんてことをって言葉が方々から漏れた。
まあとくに、正教会の騎士団からだが。
以前にも戦えるような存在に全く見えない、騎士たちなので。
狼狽ぶりがまたすごく酷い感じだ。
「ねえ、後輩よ!」
馬乗りは継続中で、あたしの腹にじんわりと感じる温かさが、ねえ。
「あの神殿騎士は戦えるのかな」
戦えるって返答を待ってた。
が...
「数合わせに決まってるじゃないですか!!」
ああ、やっぱり。
百人が千人いても、戦力はゼロに等しい。
じゃあ、何でそんなのがあるのか。
スバリ! 見栄である。
犬も食わねえもんを。
「なら、一時的に悪魔にでも憑依させて」
騎士団長と、副団長が涙を浮かべて拒絶する。
憑依されるくらいなら、獅子の心という鼓舞スキルで戦いたい。
とはいえ、どちらも最終手段では...ある。
「今夜、闇夜に乗じて...街の魔物どもが夜襲を仕掛けてくる。低級の魔物崩れは、髭で体温や獲物の恐怖を嗅ぎ分ける。神殿騎士たちには囮になって貰おうと考えていたのだが」
魔王ちゃんの策はシンプルだったんだけど。
当人たちには下策に聞こえたし、恐怖が増して卒倒しそうになった。
仰向けに後輩と戯れるあたしに、魔王ちゃんの視線が止まってた。
ま、あたしは仰ぎ見るソコに、あわびを見たのだけど。
「聖女を囮にして、袋にしよう!」
マジかあ~