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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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旅は道連れ、 6

 あたしらの馬車旅は、酔いと空腹と、ついで潮臭い賢者タイムを挟んだ2週間半だったように思う。

 トッド君も3日にひととき、川や林の向こうでイカ臭くなってる時もあって――ま、たぶんいい思い出が作れたと思うんだわ。

「そんなの、いい思い出でだと思いますか?」

 相性は悪くないと思う。

 2週間以上も一緒にいると、だ。

 いつの間にかおどおどしい、トッド君とも打ち解けて、たと思う。

 タメ口になってた、し。

 ――後輩と彼が、だ。

 あたしに対しては、二人共通で“()()()”になってたわけ。

「えっと、おまえらふたり...もう、卒業アレ...しちゃったのか?」

 右の人差し指は、後輩に向け。

 左の人差し指は、トッド君に向けてある。

『んな、わけあるかー!!!』

 ってハモったふたりの怒髪天。

 いや、笑える。


「指で輪っか作って、穴を突かない!!」

 トッド君の手刀があたしを襲う。

「これは詰まるところの()()です。姐さんはいつものよう、無邪気にサイコロ転がして遊んでいてください。その間に当方ともどもで、事件コトを解決して...百合を咲かせます故!!」

 百合ってフレーズで、トッド君の食いつき方が変わる。

 いや、豹変と言っていい。

「それは、先走りのようですね! ボクもこれまで我慢してきたんです。故に仕事が終了したあかつきには、セルコット姐さんのクリ、クリ殴りさせてもらいます!!!」

 あ、あ...はい。

 なんか返事しなきゃいけない気がした。

 で、でも...クリ殴りとは、一体?!



「セルコット姐さんを失神させると、患って途中下車の旅に付き合わされないという点においては、紅さんのお手柄です。癪ですが、非常に癪ですが...今回は、大会が始まる前に王都に入ることが出来そうです。これでオープニングセレモニーが見れるとなれば」

 ちょい待て。

 なんだ、失神って...

「ま、こういうの!」

 ドスっと首筋に変な衝撃が走り、あたしは突っ伏した。

 普段は、賢者タイムで無気力なところ、頸動脈を圧迫するなりで堕とすのだという。

 おっかねえな。

 それ死んじゃうよ?

 ね、殺す気?

「落としちゃったんですか?」

 話の途中なのにって、トッド君が後輩を問い詰めてる。

 後輩も面倒になったとばかりに、

「姐さん起きてても、何か意味ありますか?」

 なくもないだろうと、あたしは思うのだが。

「ま、結局、この後最後の1日も馬車ですし...トイレ休憩も終えましたから」


「ほら。やっぱり意味がない」

 頷く。

 馭者も、

「そろそろ馬が飽きてきたんですが」

 走りたがってると促してきた。

 走り出して数十分で、止まるを繰り返すのは馬にとってもストレスが半端ない。

 気持ちよく走らせるように調教はしていないけど、やはり限界みたいなのはあって。

 その原因だったあたしが大人しくなった途端。

 馬もやる気が戻ったという。

「で、大会で秘密結社は、何をすると思う?」


「何でもできるんじゃないでしょうか。例えば、暗殺、未遂でもいいし、暴動、他にも誘拐とか...幾らでも選択肢がある。それこそ外見を変異させる薬があるならば、何処へでも入れるのではないでしょうか?」

 変装の類ではあるけど、シェイプシフトはスキルだから、魔力封じの下ででも形状維持は容易だろう。

 むしろ、そこで本物だと立証されれば、以後の厳しいチェック機能は甘くなる。

「そうか、成りすます?!」


「いえ、そもそも成りすます必要はない、かと」

 むにゃって、口をくちゅくちゅ鳴らすあたしが寝返り打つ。

 これは事故物件で。

 トッド君の竿に手を伸ばして――掴んでしまった。



 青年らの馬車は、王都にある祈祷師の館へ入った。

 どうも、王国では大家とされる名門の導師らしく、2代前の王弟が婿入りしたという。

 爵位は公爵。

 現王家から言わせれば、不貞の末の棚ぼた公爵だとか。

 ま、母は庶民の出自であり、夜狩りに出た王が、道中で孕ませた子だという。

 故に棚ぼた公爵と呼ばれるようになったという。

 いや、呼ばせているのだ。


 これが封建社会である。

 血統こそが重要で、そこに庶民の血が混ざると汚れたと思ってた。

「ようこそ、同志よ!」

 青年一行は、手厚い歓迎を受けた。

 団主からの文では“愛弟子が吉報を持ってゆく故、心して待て”とあったからだが。

 婿入りしたという王弟は、雰囲気だけならば現国王と双子に見えた。

 故に、やや一寸だけ青年マディヤは息をのんで、立ち尽くした。

《よく見れば確かに別人だ。だが、佇まいと...その雰囲気がここまで似るか?! いや、組織の賜物だろう本人もその修練に励み、今回の仕事にのみ賭けていると見える》

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