旅は道連れ、 6
あたしらの馬車旅は、酔いと空腹と、ついで潮臭い賢者タイムを挟んだ2週間半だったように思う。
トッド君も3日にひととき、川や林の向こうでイカ臭くなってる時もあって――ま、たぶんいい思い出が作れたと思うんだわ。
「そんなの、いい思い出でだと思いますか?」
相性は悪くないと思う。
2週間以上も一緒にいると、だ。
いつの間にかおどおどしい、トッド君とも打ち解けて、たと思う。
タメ口になってた、し。
――後輩と彼が、だ。
あたしに対しては、二人共通で“姐さん”になってたわけ。
「えっと、おまえらふたり...もう、卒業...しちゃったのか?」
右の人差し指は、後輩に向け。
左の人差し指は、トッド君に向けてある。
『んな、わけあるかー!!!』
ってハモったふたりの怒髪天。
いや、笑える。
「指で輪っか作って、穴を突かない!!」
トッド君の手刀があたしを襲う。
「これは詰まるところの同盟です。姐さんはいつものよう、無邪気にサイコロ転がして遊んでいてください。その間に当方ともどもで、事件を解決して...百合を咲かせます故!!」
百合ってフレーズで、トッド君の食いつき方が変わる。
いや、豹変と言っていい。
「それは、先走りのようですね! ボクもこれまで我慢してきたんです。故に仕事が終了したあかつきには、セルコット姐さんのクリ、クリ殴りさせてもらいます!!!」
あ、あ...はい。
なんか返事しなきゃいけない気がした。
で、でも...クリ殴りとは、一体?!
◇
「セルコット姐さんを失神させると、患って途中下車の旅に付き合わされないという点においては、紅さんのお手柄です。癪ですが、非常に癪ですが...今回は、大会が始まる前に王都に入ることが出来そうです。これでオープニングセレモニーが見れるとなれば」
ちょい待て。
なんだ、失神って...
「ま、こういうの!」
ドスっと首筋に変な衝撃が走り、あたしは突っ伏した。
普段は、賢者タイムで無気力なところ、頸動脈を圧迫するなりで堕とすのだという。
おっかねえな。
それ死んじゃうよ?
ね、殺す気?
「落としちゃったんですか?」
話の途中なのにって、トッド君が後輩を問い詰めてる。
後輩も面倒になったとばかりに、
「姐さん起きてても、何か意味ありますか?」
なくもないだろうと、あたしは思うのだが。
「ま、結局、この後最後の1日も馬車ですし...トイレ休憩も終えましたから」
「ほら。やっぱり意味がない」
頷く。
馭者も、
「そろそろ馬が飽きてきたんですが」
走りたがってると促してきた。
走り出して数十分で、止まるを繰り返すのは馬にとってもストレスが半端ない。
気持ちよく走らせるように調教はしていないけど、やはり限界みたいなのはあって。
その原因だったあたしが大人しくなった途端。
馬もやる気が戻ったという。
「で、大会で秘密結社は、何をすると思う?」
「何でもできるんじゃないでしょうか。例えば、暗殺、未遂でもいいし、暴動、他にも誘拐とか...幾らでも選択肢がある。それこそ外見を変異させる薬があるならば、何処へでも入れるのではないでしょうか?」
変装の類ではあるけど、シェイプシフトはスキルだから、魔力封じの下ででも形状維持は容易だろう。
むしろ、そこで本物だと立証されれば、以後の厳しいチェック機能は甘くなる。
「そうか、成りすます?!」
「いえ、そもそも成りすます必要はない、かと」
むにゃって、口をくちゅくちゅ鳴らすあたしが寝返り打つ。
これは事故物件で。
トッド君の竿に手を伸ばして――掴んでしまった。
◆
青年らの馬車は、王都にある祈祷師の館へ入った。
どうも、王国では大家とされる名門の導師らしく、2代前の王弟が婿入りしたという。
爵位は公爵。
現王家から言わせれば、不貞の末の棚ぼた公爵だとか。
ま、母は庶民の出自であり、夜狩りに出た王が、道中で孕ませた子だという。
故に棚ぼた公爵と呼ばれるようになったという。
いや、呼ばせているのだ。
これが封建社会である。
血統こそが重要で、そこに庶民の血が混ざると汚れたと思ってた。
「ようこそ、同志よ!」
青年一行は、手厚い歓迎を受けた。
団主からの文では“愛弟子が吉報を持ってゆく故、心して待て”とあったからだが。
婿入りしたという王弟は、雰囲気だけならば現国王と双子に見えた。
故に、やや一寸だけ青年マディヤは息をのんで、立ち尽くした。
《よく見れば確かに別人だ。だが、佇まいと...その雰囲気がここまで似るか?! いや、組織の賜物だろう本人もその修練に励み、今回の仕事にのみ賭けていると見える》




