邪神と青年
青年が“神秘”に触れたのは、神学生としてこの島大陸に訪れた頃だ。
恐らくは10年くらい前に成るだろう。
奇妙な形の“悪魔像”が邪神の棺だったという。
◇
邪神と表現しているけど。
神さまのソレとは。
ちょっと違う。
乙女神が翻訳したのは、壁や床を這う“G”と大差ないってだけ。
仮に“ジョージ”としよう。
いあ、“ジェニー”は頭文字が違うか...“グラトニー”は、唐突にかっこよくなって。
違う気がしてきた。
もう、“ジョージ”でいいや。
世界の隙間から入り込んできた、別次元からの客だ。
ただし召喚ばれもしないのだから、異物と一緒ってはなし。
さあて。
青年の素性は、共感性の高い――
正教会の神秘科に属する神学生だった。
後輩の“紅”が所属するのは、近代魔法科で教鞭も取るし、専用の教室もあるという。
異端審問官は、まあ。
暗部に籍があるだけで名札付けて、練り歩いてる訳じゃない。
こいつほど上手く利用されてるのも珍しくはない。
さて、話を青年に戻そう。
神秘科の目的は、神代以前の“純粋な神力”に興味がある。
解体して、分析し、監察することが主な行動であるから、使い熟せるようになるとか。
そういうレベルには未だ至ってない。
いずれは――は、あるかも。
エルフ出身の学生や講師が多いのも理由かもしれないけど。
あたしが召喚した、エルダーク・エルフさんら曰く『遺物ってのは大概、埋もれてる理由があるから埋まってるもんだ。まず埋もれてた状況をしばらくじっくりと観察して、顎から上の臓器でしっかり考えて...そして、元あった場所に埋め戻せ!!!』と、語ってくれた。
あたしも同じ感覚だ。
別人格に分けられた“魔王”ちゃんという例もある。
これなあ。
どっちが主人格か答えは出てないんだけど。
学校の教授や魔法使いどもが、魔王ちゃんに肉体まで与えたんで、更にややこしく拗れた事例になって。
神秘の追求が生じさせた事故って事になってる。
まあ、あたしのことはいいや。
青年の共感性の高さは、6代前にまで遡ると。
そこにハーフのダークエルフ族に連なる血があった、からだ。
もっとも薄すぎて血から得られる役得が、ない。
神学生になって、神父を目指すってことがなければ、彼の生涯に“神秘”の関りは無かったはずだ。
そして、巫女と同じ力に目覚めることも。
神秘科に必須なものは...
類まれなる共感性の持ち主である事。
◆
邪神と呼ばれて牢獄に繋がれてたのは、外世界から来たものの残滓。
本体の方は、火焔の魔女に焼かれたまま、この世界から去ったようだけども。
燃えカスが残ったのは――彼女のミスだな。
いや、派手に燃やしたから。
世界にはそんな残滓が未だあると言っていい。
掃除には“冒険者ギルド”を利用している。
《角笛だと?!》
記憶の中に音色が残っている。
多くの戦友とともに魔女と戦い散っていった記憶が。
ただし、残滓には残るだけの憎悪しかない。
《あれが吹かれたって事は...》
いいや、いいやと煉獄の炎で身が焼かれる世界で...。
頭を抱えて、戦慄してる。
《...近づけるな! 遠ざけろ!! 俺にアイツを近づけさせるな!!!!》
吠える邪神が、人っぽいなと。