乙女神の日常
乙女神は、宮殿から抜け出すと――自前の牧場に身を寄せてた。
ぶさいくな牧羊犬と、生意気な羊、非常になんとなく怠惰な馬がいる憩いの場に。
働き者の鶏は、産み落とした卵をせっせと籠に乗せ。
回収しに来る小間使いを待つ。
まあ、これが創ってしばらく放置してた、彼女の憩いの場だけども。
牧草に埋まってた乙女神を発見したのが小間使いだって言うのだから――神さまの主な仕事は、教会で集められた人々の聲に耳を傾けることだ。朝飯、昼飯に午後のティータイムと、晩飯に睡眠以外はまあ、ほとんど全部。
聞かされる立場にある。
一時は、耳を休める日なんてのを設けたことがあるけども。
長続きはしなかった。
聲が鳴りやまない事が無いからだ。
ただ、ほんの数秒――神さまお願いです、告白する勇気をお与えください――なんてのは日常茶飯事、聞き届けることは無いけど。
逝く瞬間に――神さまーぁ!!!!――って叫ぶ子も少なくはなく。
こんなのまで乙女神の耳に届いてしまうのだから。
神さまの仕事はブラックだ。
さて、牧場で発見された乙女神。
採集したばかりの卵で、飯を食う。
「朝餉は...」
「忙しくてね、とる暇も無いんだよ」
時間はちゃんと取ってある。
その時間まで寝てたから、食べる暇が無くなったのだ。
◇
卵の入った籠を両手で抱え、小間使いは神殿へ。
曰く『ここに女神さまが居たなんて、言いませんから』と、告げていく。
神さまも、鼻で嗤いながら。
「じゃ、話半分で期待しちゃおうかな」
再び青い空を見上げる時間へ戻る。
産みたての卵かけご飯は美味かった。
世界の端で、稲作をはじめた国からの供物に入ってた“古代米”。
少し黄色味がかったもんだけども。
「食べてみたくて、巫女に託したもんだけど。食材としての改良はちょい、かかりそうなトコやね。まさかボタンの掛け違いだけで、稲作が廃れるとは思わなかったし。野生味しすぎて全然、美味しくないとか止めて欲しいわ~」
いあ、暫くはその旨くない食材が奉納される。
供物から一般家庭に食材として拡大がるのはこれから。
百年、いあ、数百年単位で観測する必要がある。
「いあ、だが。喰ったあとに横になるこの背徳感。あかんな~」
日々の仕事が聲を聞くことだとすると、今の状態は。
耳栓して横になるだけ。
草の中で“大の字”で腕や足を放り投げて――ただ、時間だけを垂れ流す。
スカート中に不細工な牧羊犬が頭を突っ込んでくるまでは、テンプレートなほぼほぼ日常。