聖女の行軍 4
あたしたちの歩みは、魔王ちゃんの角笛によって知られることになった。
それと同時に、囚われている“勇者”の処遇も、変化していた。
だって邪神さまは、これまでの余裕があるような態度が激変し。
僅かに投げ槍っぽくなった。
心、ここに非ず。
邪神に依り代と定められた青年の自我が、深層より浮き上がり易くなって。
呪縛という支配が曖昧になってた。
まあ、要するにキョドって、情緒不安といったところか。
チョロいな、イレギュラーさん。
◆
あたしたちよりも先行しているのが、冒険者ギルドから派遣された人たち。
調査旅団と聞いてたけどね。
正教会の方々が、無駄な出陣式をしている時に、ミロムさんのツテで顔合わせすることが出来た。
はっきり言って。
あたしたちの方が甘く見積もってる気に、させられたわ。
神秘の強奪だと、後輩は言ったけど。
あれは教会関係者として見た、敵愾心めいたものじゃないかな。
奪う、奪われとかされてる内に、目的を見誤ってる可能性が指摘される。
だって、あの人たちの表情は、さ。
この遠征に出る前のお爺ちゃんだったもの。
後輩が篭絡する前のお爺ちゃんがみせてた、険しい表情。
神秘を前にしたとき。
傲慢が死を引き寄せる。
怠惰が絶望と向き合わせる。
強欲がすべてを奪う。
と、彼らは語った。
いや、騙り聞かせてくれた。
「要するに、彼らは先輩を怖がらせたのですよ!!」
あたしの股間に頭を埋める、後輩。
そんなトコに顔を突っ込んだって、新調したての皮革パンツの匂いしか。
「いいえ、いいえ。革細工からのぴっちり感から、先輩のあわびが見えるの、デス! 密着していると汗もかくでしょうし、当方の鼻先にも先輩の潮気、感じマス!!!」
「なんか、キャラかえてきた?」
語尾の強調はなんだろう。
まあ、この子のアンテナは昔ら非常に高かった。
その後のスキンシップは、学生時代と比較すると...ね。
すっごい大胆になったと思うし。
「――正教会の隊でも、調査旅団として通常よりも遥かに、兵数が足りてません。真面目に言えば、冒険者ギルドの用意した五百人よりも...多いんです。ですから、当方たちが明るく振舞わなければ、皆が不安に、ぶっちゃけ当方も怖い! 怖いんです」
ぶっちゃけられた。
あたしの股の中で。
顔は見えないけど、震えてるのは分かる。
「大丈夫だよ!」
後輩が少しだけ顔を上げた。
あたしの上衣の裾で見えないんだけど。
たぶん、惚けてるだろう。
「これは、まあ、詳しくは言葉に出来ないけど。神にはその反逆者を、悪魔にはより強い王を当てる。この戦いは機先を制した者が勝つ!!」
あたしのガッツポーズ、似合わねえ。
なまっちろいエルフの細腕じゃあ、豆もやしかって感じの。
まあ、後輩もだが。
同じ馬車に乗り合わせている、ミロムさんとヒルダが微笑んでくれてる。
勇気出るわ。