聖女の行軍 2
耳敏い悪魔たちは、角笛に耳を傾けた。
鋭く尖った耳はエルフのようだけど、似て非なるモノ。
あたしらは、御伽噺で言えば“妖精”の仲間であるという。
いや、物凄く単純にソレと分類した場合、妖精にちかいってだけで。
今は原種とかけ離れてるって話だよ。
真に受けちゃだめだ。
◇
守護の森結界の外にあるのは――魔王。
火焔のっていう、あたしの半身で。
子供のころにドラゴンの幼生体を召喚してた、危なっかしい娘だ。
《エルダーク・エルフの角笛で、邪神の気もこちらに引けたようだな》
作戦を知らなければ「何してくれちゃってんの!!!」って怒っていいレベル。
ヘイトを集めたのだから。
パーティーで言えば前衛がソレをする。
中衛や後衛は、死角外からエネミーを攻撃するわけだから、クリティカルが入り難いわけがない。
たまに勘のいいモンスターも居ない訳じゃないから。
ヘイトの管理は前衛の大事な仕事だ。
で。
作戦なんだけど。
門の都を発つ前に、あたしと魔王は策を講じた。
いや、立案と実行は彼女がする。
あたしは...邪魔らしい。
おおい。
作戦であると知っているだけでいいというのだ。
《セルコットが最大戦力で切り札なのに、前衛に出てきてヘイト集めちゃ意味がない》
だ、そうな。
エルダーク・エルフが4人なのも意味がある。
あ、いや。
たくさんいると、交通事故みたいな滅茶苦茶感があるから。
とりあえず、時代にも分相応というのがあって――これは受け売りなんだけども、従者召喚による手勢と言うのは、神代から隔離された世界からそのレベルのままを、呼んでくるというものらしい。
魔王がそう言ってたんで、たぶん間違いない。
さて、そうすると。
エルダーク・エルフひとり分で、数百、いや千単位の兵士に匹敵する可能性がある。
魔界から来たという、シグルドさんも俄かには信じて貰えなかったし。
お見合いさせたら、引かれてしまった。
「これは、角笛ですか?」
眠たげな表情の後輩がある。
こいつとは寝床が別だった筈だが。
いつの間にか潜り込んでやがった。
しかも、ミロムさんとの間に、だ。
「...聞こえる?」
「微かに、です。天使たちの来迎でもないですよね?」
乙女神はいるけど、天使...天使はいないと思うけど。
あれか?
御使いっていう、こう鼻面が長くて牛だか、馬っぽい連中かな。
神々の集う催しの中の女神たちにも、蛇っぽいのとか猿も象もいたような気がするし。
あの御使いをと言うのであれば...
ああ、いるか。
「違うと思うよ、眠たければ寝てなさい」
あたしは退散させてもらうけど。
あと数刻で、進軍が再開される。
外の魔王が邪神に群がってた、悪魔たちの気を惹きつけた頃合いだ。
邪気を得れば、悪魔たちも一段上にレベルアップするといいう。
でも、それは魔王に対する反逆行為でもある。
とはいえ、それが悪魔ともいえる。
《さあ、散れ! 小物どもが!!!》