聖女の行軍 1
あたしの一歩は、わりと軽かった。
こう仰々しく、いやうやうやしく?
どれもしっくりこないけど、正教会の連中は儀式? いや、式典みたいのを開いて――
調査旅団だってことを忘れたかのような、豪奢ぶりだ。
冒険者の調査団とは別行動にもなった。
「一緒に行動すればいいのに?」
最初の1日目の夜は野宿に成る。
大層な送り出しの式典を開いて、門の都から出たのは昼過ぎだ。
ミロムさんは、旅の支度に十分な時間が貰えたって喜んではいたけど。
師匠とヒルダは士気が挫かれたと怒ってた。
結果、昼間から酒を飲んで――今も使い物に成らない。
襲われたら...
「大丈夫、セルは私が守る」
ミロムさんが男前すぎる。
後輩があたしにしがみつき、
「当方は守られたい気分です」
「あ、お前も戦えよ」
流石に襲われたら、あたしも戦うんだけどさ。
◇
門の都から見えた景色は、同じ島大陸かと思わせるほどの荒野が拡がってた。
草木の気配のない不毛なる大地。
エルフとしての直感は“行きたくないなあ”だ。
幸いにもお爺ちゃんは生粋のエルフ、混じりけなしの天然エルフ。
「天然って、儂は...いや、いい。“守護の森”は張り終えた、魔獣でさえ我らを感知できんじゃろ」
“守護の森”は、幻影魔法のひとつ。
エルフ族のまあ、固有スキルの一つだろう。
あたしが使えたらいいんだけど。
色んなのが干渉しあって、使えるバフやデバフが僅かしかない、ポンコツぶり。
これで聖女だっていうんだから。
「大丈夫、セルにサポーターは求めてない」
ミロムさん...。
それは、どういうこと?!
「だって先輩って、他人の静止聞かずに飛び込んじゃうじゃ、ないですかあ!!」
こらこら、後輩。
あたしは暴走機関車じゃないよ。
「大して変わらんだろ? 誘蛾灯に飛び込む癖もある」
えー。
あったかなあ。
師匠まで...いや、いつ復活した?!!
「ヒルダの気付けめいた屁で覚醒した。妹は実が出た雰囲気の屁を捻ってたから、そのうち泣きながら覚醒するだろう。ケアをよろしく...」
と、残して兵舎側へ消える。
呑みに行ったと考えるのがよさそうだ。
「ヒルダが、泣く?!」
その時は、信じられないと。
嗤ったものだけど。
確かに彼女は、泣きながら覚醒した。
野宿はもう一泊することになる。
あたしの下から、従者――エルダーク・エルフが4人が散っている。
各々が角笛を天に向けて吹き鳴らす。
人に聞こえる音色ではなく、魔に呑まれた者たちが耳にする音色。
どこに居ても聞こえるんだという。
《さあ、悪魔ども...魔王の帰還である》