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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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軍靴のひびき 2

 アイヴァーさんの職業は、馭者ではない。

 隠密に長けた斥候スカウトである。

 敵地に単独で潜伏して、機密書類の奪取、或いは工作などが得意で――すっと伸びた腕に絡めとられる衛兵ひとり。身体全体でホールドしたように抑え込み、口と鼻を掌にて塞がれた兵士は、静かに堕ちた。

 彼の芸術的な技術は不殺。

 相手を気絶させるのが得意だ。

 不用意に殺し、亡骸が発見でもされると。

 先ず、侵入が疑われる。


 殺害が任務にも必要悪ともなるのでも。

 不用意ではなく、相手の()()()に特化した形で殺害する。

 例えば、城壁から落ちる...とか。

 酒に溺れる...とか。

 厠か、風呂場で転んで、とか。


 兎に角、不自然なんだけど自然な殺しにする。

《それが一番、神経が削がれるから殺したくねえんだよなあ》



 アイヴァーさんが潜入して、10日あまり。

 見つかり難いのは。

 斥候としての活動を『夜』に限定しているから。

 夕闇とか、宵のうちなんてでもなく、深夜の数時間のみ。

 日付が変わって、()()と音が消えたようになる頃あいに、だ。


 無意識にも、夜型の警備兵さえも眠気が誘われる、時間がある。

 2時ころの前後なんだけど。


 この時間の世界は、蛾の羽ばたきも耳に届きそうなほど、静まりかえって――

 それこそ耳をすませば山肌の転がる石の音さえも、詩的に聞こえるだろう。

《さて、執務室を最後にしたが...》

 砦の最奥。

 小さな館造りの建造物だけど。

 他の防御施設にがっちりと、守られた構造になってる重要拠点。

 尖塔から見下ろすと。


 その重要度がより分かり易い。


 このためだけに。

 毎回、尖塔へ登るのだが――「いい加減、こう登っては真下の藁山にダイブするのも...億劫だな。結局、城壁に昇って見張りの死角に入ってやり過ごし。対岸の館を目指すのだし...(指の間へ互いに挟み合わせて)こう、もっとエキサイティングに冒険したいものだ」

 なんて独り言ちる。

 いや、そもそもアイヴァーさんから“冒険”という言葉は信じられない。

 あたしなら兎も角だけど。

 斥候を生業として、生まれた時から叩き込まれる魔狼族。

 ライカンの上位種にして魔界の猟犬ハンターとも言い伝えられる存在。

 もっとも、人狼だってわりと目撃例は少ない。

 これは彼らがストイックなまでの現実主義者だから。


 冒険なんてしない。

 確実とか。

 堅実とか。

 実直にとか。


 固い言葉の似合う人たち。

 いや、まあ。

 個体差はあって、ちょっと上付いた者はいるだろうけど。

 そうした性格の振り幅も、あたしらとは違う訳なんだけども。


 風が鳴く。

 弩から放たれた矢が、対岸に向かって飛んだのだ。

 射手は勿論、アイヴァーさん。

 念のために2本のロープが張られる。

《回収? 考えてねえよ...マジで》

 とりあえずは。

 そう、館への綱渡りからはじめよう。

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