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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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軍靴のひびき 1

 魔狼のアイヴァーさんは、ひとり国境を渡る。

 聖国の発布によって、乙女神の信徒兵があつまる頃で。

 メガラニア公国にとっては――まあ、あれだ。

 バツの悪いう状況に成りつつあった。


 と、いうか。

 信徒兵は各国からの召集な訳だけども。

 不毛の大地から、世界に対して反逆する筈だったのに、だ。

 このまま挙兵すると自由都市連合よりも先に、討ち滅ぼされるという確信めいたものがあった。


 秘密結社も自殺志願者ではない。

 老翁は「この際、計画の土台。根本から見直すことを勧める」なんて台詞を、選ぶくらいには慎重だ。

 信徒兵が聖国を発てば、もう少し話が変わっては来るけど。

 そんなに甘くないのも事実。

 メガラニア公国は侵略戦争を開始する直前だった。

 そのための重武装化だったわけだけども。



 国境の城塞にある城主執務室につらなる、ソファーに投げ出す身体。

 自棄にはなっても、頭の中は冷静なマディヤ・ラジコートがあった。

「老翁の言うとおりになった」

 悔しさと、呆れた感覚の吐息。

 吐き出すだけで吸う気配もない雰囲気だけど。

 そのままだと死んじゃうし。


 彼の執事然とするナシムは無表情。

 大人しい少女には見えるけど。

 怒らせると怖い剣術の使い手。

「――と、言いますと?」

 向かいの席には、当の城主閣下。

 秘密結社に場所と時間、己の欲を預けた人物だ。

 階位は子爵。


 公国では辺境公とも呼ばれるので、公国王家の血筋ではある。

 継承権はずっと日の目を見ない再開だけども。

「いや、この辺りの政治は...君たち王家の者が詳しいだろう。ボル爺の見識と結社からの兵団があって、公国きみらは世界に噛みつくことが出来る!!!」

 マディヤの評価は老翁よりも少し低く見ている。

 まあ、翁にしてみれば肩入れした分の贔屓目があるし。

 まだまだこんなもんじゃないだろうって、希望的な観測も乗っている。


 少なくとも、片足以上の評価水増し傾向にあった。


 そこでマディヤの目が重要な意味がある。

 結社にとっての最終勧告。

 このままリソースを裂いてもいいのかどうか――ひとつは成功、ひとつは失敗に終わった。

 既存の支配構造がひっくり返ろうとしている。

 このままイレギュラーを残したままで、戦国時代に突入するかは。

《ボクの目と判断に......掛かってるか。》

 深い溜息になった。

 わざとらしく目を擦る。

 外見年齢らしく装って見せた。


 相手から、

「お疲れでしたら、もうお休みになられますか」

 って言葉を引き出すことが目的だが。

 侮ってくれて。

 年端もいかぬ、政治の経験が浅い青年とみられたい――が透けて見えてた。

 自覚は無いんだけど。

 彼の悪い癖のようだ。

「お茶を淹れさせましょう」

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