魔法学校に魔王がいた 10
キャンディスの七不思議に「魔王」というのがある。
これは、あたしが在籍してた頃に生まれた物語で。
まあ、原因もあたしだ。
自覚は無かったんだ。
今にして思えば、不思議な体験だったと思うよ。
なんで、ってね。
◇
あたしには遠巻きに彼女が見えていた。
いつも、どこか斜に構えている様子の女の子がだが。
みんなには普通の子に見えていたのか、或いは――あたしの言動に合わせてくれていたのか。
いいや。
今更、それは関係ない。
きっと、後輩に「あの子は?」と聞いたところで、思い出す事も無いだろう。
えっと。
黒衣の才女だけども。
小旅行を最後に、見なくなった。
風邪でも引いて...
部屋で寝込んでるんだと思って、トリオの部屋を訪ねて歩く。
「リーリャ子爵令嬢? マウナスにオークランド男爵令嬢ですか?」
何言ってるんです的な眼差しが、あたしに突き刺さる。
ま、まあ。
あたしの言葉を復唱した子の部屋に...。
そのリーリャ子爵のご息女があったんだけども。
開かれた扉の奥は、どう見てもひとり部屋だった。
「聞き覚えはあるんですけど... お力には成れないと思います」
少し余所余所しいのは、あたしと目の前の令嬢とは学年は一緒でも年が違うから。
紅と蒼炎を後輩と呼んで入るけど、同学年になっている。
あたしは留年した。
「シェシーさん!!」
お向かいの部屋から声が掛かる。
振り向くと、ツインテールにドリル髪のテンプレな令嬢があった。
う~ん、いい香りだあ。
「ありましたよ、その御三方です!」
聞けば、寮長に掛け合ったのだという。
あたしが三人を探しているのだと。
ま、黒衣の才女もだけど。
寮長は記憶の片隅から、三人を思い出してくれた。
そして――
「もう、居られないそうです。ひとりは、卒業されて...ふたりは留年の末、自主退学されたと」
記憶にないけど。
そういう事らしい。
でも、目当ての令嬢の記録は無い。
魔女の師である“ばばあ”にも問い詰めたけど。
手がかりは無かった。
まあ、探してるうちは、見つけられないものだ。
◇◆
城壁に再び上った。
景色を見る為だけじゃなくて、心の整理をするために。
“門の都”から一歩、歩みだせば恐らく死地。
となりに人の気配。
『セル、隣、いいか?』
聞き覚えのある声色がした。
振り向きもしないし。
探しもしない。
ただ、黙ってうなずいた。
「この先に強大な敵がいる?」
いやな間じゃない。
『うん。かつてないほどの強大、な。だが、セルを前にしてでは、話が少し違うかもな』
「どういう?」
『分かってると思うが、彼らは聖女が...いや。邪神と比肩できるソレの存在を知らない。私から言えるのはそれくらいだけど。何か不安な事はあるかな?』
懐かしい彼女が傍にいる。
いや。
ずっと、この時まで待っていてくれたのだ。
覚醒した今なら分かる。
座ってた城壁の縁に立った。
「見ててくれる?」
『一緒に戦ってもいいが』
ふふ。
声を掛けなくても戦ってくれるくせに。
さて、出発しよう。




