魔法学校に魔王がいた 8
我儘怪獣、名前の知らない...あたしの友人?
仮面の少女、黒衣の才女。
他にも異名か或いは二つ名のようなものは多いけど。
おバカなトリオの令嬢たちも、
才女の誘いを受けて...
小旅行についてきた。
リアルな世界線の、旅団のような大所帯。
プライベートな空間の共有だというのに――「ちょっと、才女!」
彼女の袖を掴んで、木陰の裏へ。
連れ込んでムラっ気を押さえる訳じゃないのに、ドキドキする。
「...っその、セルコット。わ、わたしははじめてだから、やさしく、な」
眩暈がした。
これは動悸息切れのような、そんな心的ストレスだ。
「ちがーう。未だ、そっちの癖は開発してないし、あたしだって...そ、その女の子に...あーえっと、爪の手入れとかそういうのしてないし、いあだから!! なんで、こんな大所帯で来ちゃったのかって事。まあ、トリオはあんたのファンだから五十歩、譲るけど」
「五十歩も!!? いが~い! セルコットのことだから――ふたりの思い出の為に、クラス全員なんか連れてきた“おまえ”は、どんだけ恥ずかしがり屋なんだ。...が、一周回って燃えるシチュエーション作って、今夜は寝かさないぞ!!!――的な反応すると思ったー!!」
あたしはどんなプレイボーイだよ?!
おまえにそんな姿、みせたことあるか? ないだろ、ないよな。
御触りすると危険な、災害娘の頭をポンポン叩く。
きゃんきゃん嬉しそうに鳴く、才女がここに。
普通にしてればとっつきやすい子なんだけど。
◇◇◆◇
正教会の旅団は、中継都市を後にして――
西端の国境都市“ラーブル”、別名“門の都”って言う。
ラグナル聖国から国境線に沿って、聳える白亜の白い壁こそ“神の指”って名の巨大にして長大な城壁。
一応、内側からなら城壁の上にあがれるけど。
上がらない方がいい。
寒いし、高すぎるし、めっちゃ怖い。
城壁の高さは下からだと、首が付かれる垂直さで――一説に、百メートル以上あるという。
ここら辺は湿度と寒暖差があるので、雲が出来やすく。
それで、万年。
城壁の上の方が下からみると、雲の上にあるように見えるという。
恐ろしい話だよ。
で、上から見ると。
これが絶景を通り越して、足元がおぼつか無い感じの恐怖に様変わりする。
「この程度でビビったら、帝国で皇女なんか出来ませんよ!!」と威勢の良かったヒルダが、2歩でしゃがみ込んで失禁した。だから上る前に、放尿しとけと。
あたしも、城壁の上で半歩。
外壁へ向かって虹をつくってみせた――登った全員が『キレイ』って慰めてくれたけど。
下界で放尿したのち、指で2回も擦って準備万端だったのに、この体たらく。
「当方は、先輩の聖水を浴びたいくらいの気持ちです」
後輩もあたしの足元で震えながら耐えてるとこ。
ミロムさんは平気そうだけど...
うん、あれは目を瞑ってるな。
師匠らは登らなかった。
正解だ。
ヒルダに先導された、女の子の組が皆、腰がイカレタんだわ。
「あいつら、緩み過ぎだろ」
師匠の言葉。
耳が痛い。