旅は道連れ、 4
「なになに? 怖いよ、ふたりとも」
あたし、なんか言った。
変なこと、言った?
「パジャマ?」
後輩の表情がマジ、怖い。
な、なんだよ...
来てたろ? 冒険者ギルドに登録し、始めてもらった給料で買った“首周りがヨレタ、ロングTシャツ”だよ。
下着はパンツしか履いてないけど、膝上12cmまであるロングで。
お尻までしっかり隠れるから、黄ばんでても捨てたくない逸品!
「あ、ああ...あれが、パジャマ」
な、なんだと思ってたんだよ。
「えっと、だらしが無いのかなっと...」
トッド君もおんなじ風に思ってたらしい。
わざわざ水浴びした後に、黄ばんだ服を着るのはエルフ族の伝統とか思ってたらしい。
マジか!!
いや、そんな風習ねえわ。
郷の連中にしかられる、わ!!
「えー」
「ま、キャンピング仕様はセルコットさんのいう...着替えも出来るスペースもありますから」
じゃ、じゃあさ。
「はい?」
お風呂は?
赤面しながら問うた、あたしがバカだった。
後輩はまたも、
「ぷー、クスクス!! 姐さまは、7日1回しか風呂入りたがらない子じゃないっすか、生理中も水浴びしないで匂わせてる子が、今更、ぷー。男の子の目を気にしてるんですかー!!!」
だ、そうな。
いや、そういうのじゃなくて...
「いや、ありますけど。その場合はドラム缶になります」
持って行くとなると、別の馬車が必要になり...馬の保証金とか馭者日当とか面倒になるとか。
ま、これらの経費はすべて魔法詠唱者協会持ちだから、実のところあたしたちには関係ない。
「それを言ったら身も蓋もありませんし、絶対に経費で落ちるとは確約も出来ません!!」
だって。
えー???!
◆
女神正教会の護送車列に傭兵団が襲来し、王都へ向かう街道のひとつは凄惨な場と化した。
死者の躯は、傭兵と教会とで埋め尽くされる。
あたしの後輩である“蒼炎の魔女”も負傷した身だ。
今は、生き残った聖騎士と、治癒士数名で行動している。
「お怪我は?」
突如の攻撃により肉薄し、範囲攻撃となる魔法を封じられたため遅れをとった。
“蒼炎”はそれでも、友軍の耐性強化などに努めたけども――だ。
自身が手傷を負わされ、護送中の教区長とギルド長が敵の手中に堕ちてしまった、という状況。
「わたくしの方は自分でなんとかすると...して、追撃は?」
騎士は横に振った。
聖騎士だけがこの先の盾であり、剣である。
神殿なり聖堂の騎士団でもあれば、彼らを残して追う事も出来た。
「およそ傭兵団は二つの目標で行動していたのでしょう。先のひとつは...」
「わたくしたちの分断。戦力の弱体と要負傷者をつくること」
明察と言われ、聖騎士は手持ちの武器を見る。
複合弓の数本と、帯刀のブロードソードのみ。
仮に追撃したとしても、聖騎士数人では逆に撃退されかねない。
「魔力があっても、こんな何もないとこで籠城する...くらいしか無さそうね」
荷馬車を運んで囲いを作り、そこへ城壁魔法の敷設。
持ち堪えて2日余り。
治癒士たちにヒールなり、エナジー・マジックドレイン・ポーションを分けて貰うなりで食いつないでも、倍の4日くらいしか野宿できそうにない。その間に、獣に襲われる確率はかなり高くなる。
「――と、推測したら“蒼炎”さまを置いて追撃なんて出来そうにありません」
聖騎士長の優しい言葉。
彼女が普段から騎士や、治癒士に心を砕いている証左だ。
いざという時に気遣ってくれる。
「ま、とりあえず傷を見せてください」
治癒士は彼女の手を退かせて、傷を見る。
やや深いが痕が残るだけに見えた。
「やっぱり痕が残るか」
自分でも気が付いてた。
服を脱いで、あたしが気に障るのではないかと心配したようだ。
あたしが気にするとしたら、後輩の命だわ。
「とりあえず、今はご自愛を」
逃げた馬を探し、
動ける荷車と引き合わせる。
「とりあえずは近くの村へ」
「いや、一度戻り、別のルートから王都へ帰還する。進めば追撃とみなされ、今度こそOUTだと思う。ここは臆病なまでに慎重に動くとしよう、な?」
“蒼炎”は確かに臆病風に吹かれてた。
利き腕の負傷だから、まともに魔法が操れるか難しいとも考えて――聖騎士長も深く頷く。
「では、戻りましょう!」




