魔法学校に魔王がいた 6
あたしたちの旅団は聖国の西、サンダーラという中継都市に入った。
聖都を迂回して4日目のことだから。
まあ、わりと早く着いた気がする。
このあたりは、うん。
後輩の差配の腕がいいって話だな。
サンダーラってのは、国境の都市部と聖都を繋ぐ交易と、防衛の要所でもある。
3代前の教皇さまが建設した都市だけあって、まだ、どことなく新しさを感じるね。
都市内部にいる人々は、
「そうでもないさ、もう10年も棲んじまえば...ここいら何もなかった農民らと、大差ない顔になるだろうよ」って、道具屋のおっさんが言ってた。
そのおっさんも、聖都から引っ越してきた新参っては言ってたけど。
年季の入った店構えだったような気もする。
そうやって、ひととおり都市を巡った。
馬車の中や、トイレのお隣さんと――
あたしの周りには常に互いを監視し合う、ミロムさんと後輩がいて。
気の休まることは無かったんだけども。
ひとつ、そうひとつ。
こんな旅が前にもあったなって思い出したとこ。
◆◇◇◆
どういう訳か。
バルコニーの一件以来だな、うん。
あれから、才女さんのイメージが凄く砕けていく感じが。
あたしのことは“セルコット”と呼ぶようになった。
決まって、ひとりでいる時にだけだが。
前戯もなくいきなり、指が入ってきた違和感。
別に苦手な訳じゃないけど。
ゲテモノ好きって訳でもなかった。
だって、あたしは才女の名を未だ、知らないんだ。
なんか絡まれるなあって感じで。
おお。
そういえば、取り巻きの子らは確かにバカだから。
あたしよりも成績下だし。
カンニングして怒られてる上流階級さま。
卒業は家の力で...
そうなると、規格外な黒衣の才女はなぜ。
あたしと同学年のままなのだろう?
気にしなかったけど。
今にして思うと?
「セルコットのいない教室は寂しいのだぞ」
って一服してた、あたしの背に悪寒。
振り向くと、アレがいた。
「な、なんで」
「連れないな。名など私と、セルコットの前には不要!」
言い切った。
マジか、自分を語らず。
されど重い愛を殆ど他人に課すというスタイルか。
こりゃ、ヤバいのに目を付けられた。
「なあ、セルコット」
「はい」
「紅と、蒼炎。可愛いよな」
はぃ?!
後輩らもロックオン対象者。
「いあ、そうじゃないそうじゃない。伽の相手とか、そうじゃないぞ!!」
顔真っ赤にして否定してるけど。
魔女にしては、なんかズレてる人だなあ。
「そうだ!!」
唐突にスイッチが入った、感じ。
才女さま、柏手をひと拍打ったら、ぱっと顔を輝かせた。
とはいっても。
本人が「ぱぁっ」とか声に出したんで。
ああ、明るくなったのかなと。
仮面付けてんだ、表情なんて読めるか。
「だから、声に出しておるだろ! 私の心の友よ!!」
重い、ヘヴィ~。
「で、そうだの続きは?」
「皆で、旅行に行こう!!」
無理だ。
期末テストが迫ってる。
赤点組の再々試験で、これを逃すと最悪、卒業できなくなる。
「むー、それは困ったな。セルコットの赤点を帳消しにすべく、学舎のひとつを消し炭に」
やめてくれー。




