魔法学校に魔王がいた 5
ラグナル聖国の聖都には向かわないだけでも、軍隊が通るだけでピリピリとした、ひりついた緊張感が肌を刺してくる。そんな話を後輩にすると、ミロムさんの優し気な手を払って「先輩は、当方が身体を張ってお守りします! 滅ぼせとおしゃってくれれば聖国のひとつやふたつ」なんて、威勢のいいことを言ってくれる。
が、物騒。
物言いが、物騒なんだよ。
それで、睨まれるのあたしなんだよね。
旅団って規模だけでも厄介なのに。
ラグナルとは同じ神を奉じてるのに歩み寄りがない。
一方的に...
「教義が似てません、知らない神です~ 当方の神はセルコット・シェシーのみで~す~」
ん?
乙女神じゃないのか。
あたしの腕にひっつき。
あいや、右腕はミロムさんに占領されてるから。
後輩は仕方なく左腕にひっついてて。
実に歩きにくい。
◇
そんな両手に花のあたしを遠巻きに物欲しそうに見る子がある。
ヒルダだ――「なんだ、お前も女の子したいのか?」って、いやらしく嗤う兄がある。
師匠だ。
その兄へ、力の入っていない拳をぶんぶん当てる妹。
それはそれで、ひとりっ子のあたしには新鮮だし。
ああ、羨ましい。
「御姉妹が欲しいのでしたら、当方が産みましょうか? いえ、ロムジーさまと結ばれると...お母様の妹になりますものねえ。ですと、繋がり損ですし今のは却下ですから...」
ぶつぶつと、不穏な計画を。
爺ちゃん篭絡したとか、攻略したってのはそういう話なのか、後輩よ。
あ、いや。
爺ちゃんも男だし。
エルフってそんなに節操がない、ってことは無いか。
長く生きるから、一途な生き物ではある。
そうしているうちに相手が死ぬんだけど。
寿命で...
「でしたら! 当方が」
「はい、セルコットはひとりっ子だけど姉妹丼はお断りなの、よ」
と、珍しくはっきりと口にしたミロムさん。
別に兄妹の関係性は羨ましいと思うけど、それはそれだ。
欲しいとまでは勘定に入ってない。
兄妹でああいうバカをやれる関係性が、いいなあってだけで。
そういう意味で言えば、
...そう、あの子も。
◆◆◇◆◆
仮面をつけた黒衣の才女から受ける視線はいつも熱い。
なんというか。
ロックオンされて、いつ狩られても可笑しくはない。
フクロウとネズミの関係性に似ている雰囲気だ。
何時ものように、取り巻きに囲まれて。
ねちねちと絡まれてる。
才女は助けるでもなく、あたしを見てるだけ。
けしかけてるのが彼女だから、面白がって見てるんだと思ってたけど。
ある時、彼女から声を掛けられた。
月の無い深い夜のバルコニーでだ。
一服しようと、宿舎を抜け出した不良学生として。
息の詰まる思いって時もある。
何年も留年しているから、あらかたの問題はローテーションで覚えてしまってるし、うん。
進級できないのは、アレだ。
魔法使いとしての才の無さが、問題なんだろう。
「ひとりか?」
声を掛けられ、振り返る前に左右を見渡した。
ひとりだ。
バカ正直するぎる、あたし。
「ふふ、こうして話すとは思わなかったな」
ごめん、独り言みたいにさせてる。
まだ返事もしてないのに、しゃべらせてしまって。
「シェシー...は、少し他人みたいだな」
いえ、苗字で。
まだ知り合いってほど仲を結んで...
ちょ、他人ですよ!?!!
「セルコット、ファーストネームで呼んでもいいかな?」
「な、ちょっと性急です。いきなりキスで舌を、入れるようなもんですよ?!!」
ああ、びっくりした。
この才女、いきなり踏み込んできやがった。
しかも唐突に挙動不審になってるし。
なんの問答かしらないけど。
早過ぎなんだよ。
なんなんだよ、もうー。