裏切り? 盾騎士ネイザーと、くのいち 3
ラグナル聖国の教皇が発布した勅令は、女神の御言葉としている。
乙女神が直接介入なんて変だと思うけど。
状況は島大陸の問題だけではない。
あたしが次に目覚めた地が物語ってた。
『やっと繋がった!! もう、パスの修繕した後で変なものを拾い食いしちゃダメ! 絶対にダメ!!』
拾い食いというのは、例の這いつくばって食う、アレか。
だとしたら“自分たちは女神に踏まれることが至上の喜びです”と、する信者は今の台詞で卒倒するな。
『な~に、その厭らしい笑みは?!』
すっかり口調の変わった女神さまだが。
まあ、これも親しみやすさが増して、いい。
あたしの癖にもささるというもので。
『拾い食いも、だけど。まな板の向かう先が、島の西端だと言うのなら、結界で中が見えない状況の打破、お願いしちゃっていいかな?』
見た目が神々しくなくなった。
そう、じゃっかんギャルっぽさが残った年齢相応の乙女神は。
ちょっと幼さのギャップが萌える。
いや、これは推せる。
推しの子?!
いや、なんでもないです。
「結界ですか」
『そう、結界。不浄の塊で塗り固めたような荒い造りだけども、こう何枚も重ねたようなもんだから』
一枚、一枚剥がすので面倒だという。
曰く名付けたのが、たまねぎ結界。
ネーミングセンスは海賊並か。
「じゃあ、こう。ばちこ~んって殴ったら壊れますかね?!」
乙女神さまに引かれた。
ひきつった表情のまま、2、3歩マジで下がられた。
結界を拳で壊す。
実にあたしらしい。
だって、使える魔法が火属性に偏っている。
封印されてた中二病的末期患者みたいな、異能力があってもだ。
結局、使い方を知らなければ...
魔王にだってなりようがない。
『いあ、相変わらず非常識な方向に飛ぶのね、その頭は...』
まあ。
その評価は好意的だったと受け止めますね。
『触れられるのなら、殴って壊しても問題ないわ。先ず、触れられるのなら... 多分、物理攻撃は愚か触れることも出来ないと思うけど。まな板の性能と言うか、カタログスペックを見る限り』
ん? カタログだと!!
◆
茂みに身を潜めてたイクハ。
上空にあった監視者の気配が無くなったことを直感で知る。
魔法使いによる索敵を、肌感覚で有する危機感知スキルは凄い。
範囲は半球状で、約100メートルほど。
薄く延ばせばもう100は稼げる驚異の嗅覚と言えるだろう。
「みんな、脅威と言えるかは微妙だが。監視の目は無くなった」
乙女神の恩恵は世界にある人々にすべて注がれている。
というのは建前で。
不信人とか、或いは教会で洗礼を受けていない者には全く、加護を与えていない。
だから。
例えば、あたし。
セルコット・シェシーは、エルフの隠れ里から更に奥地で産声を上げて。
父には棄てられたけど。
母と、母がとっかえひっかえで寄こした多くの父?と、爺ちゃんの愛で育った。
この間に教会にて洗礼を受けてないから。
ノラの神さまだった、スーリヤさまと契約。
わりと偏った人生を送ったけど、幸せだった。
で、だ。
そんなあたしに女神の加護は無いに等しい。
たぶん、結界の影響も。
爺ちゃんほどには、受けないと思うんだよね。
で、彼らも。
「そうか」
長身の男がすっくと立つ。
やはり、ひと際にデカく体格もがっしりとしてた。