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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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旅は道連れ、 2

 咳ばらいを一つ。

 トッド君は崩してた膝を畳み、

 身体を捩じって、明後日に向いてた。

「武術大会みたいなのが、あるみたいです。仔細は承知してませんがね、3年とか5年くらいのスパンで、大陸のそれぞれの国を渡り歩くように行われるのだとか」

 いや、それだけ知ってれば十分でしょ。

 少なくとも、人が動けば物だって動く。

 そうなると、金だって。

「と、すると...次の目的地は」


「気分悪いの? トッド君」

 あたしは、明後日を見ている彼に問う。

 いや、椅子の上で正座ってどういう...

「これは自分に対する戒めですから!!」

 あ、そう。

 彼がロケットおっぱいを見た可能性について。

 あたしが()()となく察するに至ったのは、後輩からの――「姐さま、見えてます」――だったわけで。

 赤面、そんな次元は遠い昔のようですわ。

 ただ、貧相なおっぱいを見せたことに対する、詫びのみ。



「脇がね、こう...甘いのだそうですよ!」


「甘い?」

 青年と燕尾服姿の少女、和装のおっさんの三人の姿――この街で未だであって無い、あたしの敵。

 彼らはチャーターされた馬車にあり、馭者も彼らの仲間というものらしい。

「こう、振り上げた時!」

 横乳を指しながら、

「見えてたって話です! ピンク色のボッチが!!!」


「そりゃまた、周りも騒然としただろうな」

 と和装が呆れてた。

 いや、あたしの話じゃない。

 とある剣術大会で、奴隷の身なりで乱入した剣士が、そんな感じだったという話。

 燕尾服の少女も違う。

 彼女は読み書きができるし、外国語なら2カ国まで話せる。

 勿論、筆記だけなら4か国語をマスターしている天才だ。

 この情報は、今後、彼らとは何度となく相まみえるから――未来のあたしが告げておくもの。

「ええ、貴族様は勿論の事、雇っていたギルドの戦士職の大人みなさん方もお手上げだった様子」


「乱入って事だから?」

 青年はとくに食いつきがいい。

 剣術大会とは言っても、貴族が絡むとなると仔細はなかなか世に出ない。

 まして珍事件つきの曰くものとなれば猶更だ。

「死傷者はありません。...ま、埃には傷、家名にも泥は塗られたでしょう...剣筋は我流ですが、僅かに帝国式一刀流の匂いを感じさせる振る舞いであったとか。ま、足運びはてんで野生児との話です!」

 一刀流の構えから、袈裟斬りを披露する少女。

「お前も嗜んでたな、剣を」

 青年は優しそうに微笑む。

 まあ、それがうっとりするような美青年で。

「抜刀術の亜種、一刀流のような鎧ごと他人ひとさまを叩き壊すような、豪快なものじゃありません。てか、そんなの化け物でしょ?! 物理衝撃および物理攻撃の耐性強化なんて魔法があるのに、その一切合切をも、鍛え抜かれた剣筋ひとつに賭けて叩き壊す...私には化け物の所業にしか見えません」

 って、身震い。

 出会って対峙した場合は、ファンブル――クリティカル外しが出る事に期待するほかない。

「そうだ、その奴隷だっけ?」


「乱入して、ギルドの戦士4人を再不能にし、狙いだった子爵の三男坊に天誅と猿叫えんきょうよろしく宣言して、男根を叩き潰して逃げたそうです。恐らくは、泣かされた女の恨みみたいなものじゃないかって話で」

 少女らしからぬ発言。

 和装からは、頭の上を扇で叩かれてた。

「お前も一応は、年頃なのだから“男根”など口にするな、憚れ少しは!!」


「だって事実ですよ! 事実!」

 その当たりの恥じらいはないらしい。

 馭者からも、

「ああ、そんな話ありましたね! ふたつ先の公国の珍事件...男根潰しの少女奴隷、御屋形様も気に入っておいででしたが...」

 口を紡ぐ。

 失言したっぽいが、

「団主も、か...こりゃ、ライバルが多いな」

 なんて青年は告げた。

「今の話はここだけに。探しても、身分が身分なので、その...見つけられなかったんです。恐らくは、同業者じゃないかって、へへへ」

 軽口も。

 馭者は頭を掻きながら、

「次の街で俺っちも交代でして...馬と馬車も変わりますんで荷物は纏めておいてください」

 クリシュナムを発して、2日。

 王都まで10日は残しているところへ、1回目の馬車替え。

 このあと2回は変えるとの話だった。

「出入りの気の遣いようは、港街での足止めが上手くいかなかったって事か」

 扇を仰ぐ。

 和装に焦りはないが、悔しそうだった。

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