旅は道連れ、 2
咳ばらいを一つ。
トッド君は崩してた膝を畳み、
身体を捩じって、明後日に向いてた。
「武術大会みたいなのが、あるみたいです。仔細は承知してませんがね、3年とか5年くらいのスパンで、大陸のそれぞれの国を渡り歩くように行われるのだとか」
いや、それだけ知ってれば十分でしょ。
少なくとも、人が動けば物だって動く。
そうなると、金だって。
「と、すると...次の目的地は」
「気分悪いの? トッド君」
あたしは、明後日を見ている彼に問う。
いや、椅子の上で正座ってどういう...
「これは自分に対する戒めですから!!」
あ、そう。
彼がロケットおっぱいを見た可能性について。
あたしがそれとなく察するに至ったのは、後輩からの――「姐さま、見えてます」――だったわけで。
赤面、そんな次元は遠い昔のようですわ。
ただ、貧相なおっぱいを見せたことに対する、詫びのみ。
◆
「脇がね、こう...甘いのだそうですよ!」
「甘い?」
青年と燕尾服姿の少女、和装のおっさんの三人の姿――この街で未だであって無い、あたしの敵。
彼らはチャーターされた馬車にあり、馭者も彼らの仲間というものらしい。
「こう、振り上げた時!」
横乳を指しながら、
「見えてたって話です! ピンク色のボッチが!!!」
「そりゃまた、周りも騒然としただろうな」
と和装が呆れてた。
いや、あたしの話じゃない。
とある剣術大会で、奴隷の身なりで乱入した剣士が、そんな感じだったという話。
燕尾服の少女も違う。
彼女は読み書きができるし、外国語なら2カ国まで話せる。
勿論、筆記だけなら4か国語をマスターしている天才だ。
この情報は、今後、彼らとは何度となく相まみえるから――未来のあたしが告げておくもの。
「ええ、貴族様は勿論の事、雇っていたギルドの戦士職の大人方もお手上げだった様子」
「乱入って事だから?」
青年はとくに食いつきがいい。
剣術大会とは言っても、貴族が絡むとなると仔細はなかなか世に出ない。
まして珍事件つきの曰くものとなれば猶更だ。
「死傷者はありません。...ま、埃には傷、家名にも泥は塗られたでしょう...剣筋は我流ですが、僅かに帝国式一刀流の匂いを感じさせる振る舞いであったとか。ま、足運びはてんで野生児との話です!」
一刀流の構えから、袈裟斬りを披露する少女。
「お前も嗜んでたな、剣を」
青年は優しそうに微笑む。
まあ、それがうっとりするような美青年で。
「抜刀術の亜種、一刀流のような鎧ごと他人さまを叩き壊すような、豪快なものじゃありません。てか、そんなの化け物でしょ?! 物理衝撃および物理攻撃の耐性強化なんて魔法があるのに、その一切合切をも、鍛え抜かれた剣筋ひとつに賭けて叩き壊す...私には化け物の所業にしか見えません」
って、身震い。
出会って対峙した場合は、ファンブル――クリティカル外しが出る事に期待するほかない。
「そうだ、その奴隷だっけ?」
「乱入して、ギルドの戦士4人を再不能にし、狙いだった子爵の三男坊に天誅と猿叫よろしく宣言して、男根を叩き潰して逃げたそうです。恐らくは、泣かされた女の恨みみたいなものじゃないかって話で」
少女らしからぬ発言。
和装からは、頭の上を扇で叩かれてた。
「お前も一応は、年頃なのだから“男根”など口にするな、憚れ少しは!!」
「だって事実ですよ! 事実!」
その当たりの恥じらいはないらしい。
馭者からも、
「ああ、そんな話ありましたね! ふたつ先の公国の珍事件...男根潰しの少女奴隷、御屋形様も気に入っておいででしたが...」
口を紡ぐ。
失言したっぽいが、
「団主も、か...こりゃ、ライバルが多いな」
なんて青年は告げた。
「今の話はここだけに。探しても、身分が身分なので、その...見つけられなかったんです。恐らくは、同業者じゃないかって、へへへ」
軽口も。
馭者は頭を掻きながら、
「次の街で俺っちも交代でして...馬と馬車も変わりますんで荷物は纏めておいてください」
クリシュナムを発して、2日。
王都まで10日は残しているところへ、1回目の馬車替え。
このあと2回は変えるとの話だった。
「出入りの気の遣いようは、港街での足止めが上手くいかなかったって事か」
扇を仰ぐ。
和装に焦りはないが、悔しそうだった。




