ようこそ、バヤリーナ。おいでませ、異教徒さん 2
バヤリーナ自由都市における市民の魂は、邪神の復活の糧へと消費されていた。
世界の希望である“勇者”たちに見せつけるように。
今日もまた数十の首が宙を舞う。
おいでませ、バヤリーナ。
おこしやす、自由都市――そんなフレーズの看板があちこちの街道に立てかけられている。
今や昔の楽園都市か。
さてさて。
ひとつ疑問に思ったりはしないだろうか。
なぜ、邪神なのか。
なぜ、この地なのか。
そして...
この「なぜ」はどうして生まれるのか。
この疑問は、囚われている6人目の最後の勇者から、生じてた。
◇
勇者たちの待遇は、可もなく不可もなく。
いや、劣悪な環境においても彼らが『堕落』する気配がない。
これは不思議な事だ。
乙女神の加護の届かない不毛地帯にあっても、変わらず小奇麗に浄化されてた。
ステータスこそ、橙色に変わって何かしらのペナルティを負っているようなのだが、その事象も含めてまるっと全部、不可解にも無かったことにされているのである。
勇者が6人も同じ部屋にあるからでは?
そんな疑問が持ち上がったことがある。
力の束縛、抑制された枷によって彼らは数か月単位で、地方から地方へたらい回しにされた。
その時、6人目は考えたのだ。
この結界はどこまでをカバーしているのだろうと。
「ちぃ、ここでもか!!」
長距離念話が導師の下に届いたようだ。
6か所すべてをランダムに移動したのにも関わらず、勇者が穢れ堕落することが無かった。
むしろ、多数から単体になった分、ステータスへの干渉がし辛くなったという報告まで上がった。
故に――「埒があかん!! 邪神様の神殿に彼らを封じよう」
数年前に学術院の者が掘り起こしたという、遺跡のこと。
旧時代文明の遺跡であることは、その当時からも読み解けた。
文献は、中央大陸にあった王国の所蔵品。
勝手に持ち出してきた学芸員の手によって掘り起こされたのだが、その学芸員は今や、邪なる神の依り代となったようで「魂が足りぬ、渇きが満たせぬ。贄をもっと極上の贄を! 勇者の魂を喰わせろ」とか叫んでいた。
遺跡の中の石棺室という辺りで、石棺という長方形の石の上に座ってた。
目は虚ろに窪みとなり。
顔色はひどく、青白い。
金色の髪が痩せて、毛根から抜け落ちている様。
地肌が見える頭部に突起したものがある。
それ、もしや...角?
学芸員だったものから、
『ひゅ~』
なんて声にならないものが漏れたような気がする。
いや、吸われたのだ。
身の回りの世話を焼いてた、信徒がずるっと石畳の上に骨なしが如く崩れ落ちる。
精気の無くなった肉と皮だけのような存在となって。
皆が恐怖する。
ああ、これが邪神なんだ。