旅は道連れ、 1
「――助燃剤であることは先に説明した通りで。この間、案内所が燃やされたのは、恐らくは注目を集めたかったのだと思われます。...っ、これはあたしの勝手な憶測ですけど。“追跡者”らが躊躇って動けずに居れば、ただ単なる時間稼ぎになる。“逃亡者”たちにとっては1日でも多くの時間を稼ぎたいってトコじゃないでしょうか。仮に、思惑に叶わなかった...つまり、事故現場の究明に全力を注いだ場合、この粉が“妖精の粉”と呼ばれるものではないことが知れる訳です」
あたしの指に衆目が集まる。
この指先の銀色に光る粉にだ――ただ、あたしの鼻はこの緊張に耐え切れず...
っぶあっくしょい!!
あ...ごめんちゃい、幾分か飛んじゃったみたいで。
銀色の粉が有害ではないと言われても、炎を通せばよく燃える訳だから。
みんなは一斉に逃げてた。
ただし宗主は、あたしのTKBをじっとみつめて「うむ、良い色をしている」だって。
は?! 透視能力!!!
「今、飛ばした粉と、セルコット嬢の言う通り...惨状をつまびらかに解明できたとして、彼らは何を得る? デメリットしか被らんではないか」
いや、今もこうして議論をしている時間こそが彼らの狙い。
足止めは成功しているのだ。
「どちらも錬金術による産物であるという事です!」
そう。
正教会だって秘跡だと言って、耐性強化のアイテムを販売している。
似た方法じゃなくまま、同じ方法で精製された“粉”を作っていた。
「助燃剤を作っているのは錬金術士であったな」
宗主は深く頷き、額を拭う。
「今のコレか、そして追及の手を緩めないのだとすれば、騙られる場合もある」
時間稼ぎは成功し、敵を正当に追及することはできない。
魔法詠唱者協会の会員が関わっていたという、誘導された証拠が王国に届けられる可能性。
「正教会もか?」
「ええ、恐らくは――審問官らが動いてますが、十中八九」
後輩が首を垂れた。
正教会だけでも、独自に行動する旨を伝えたばかりだ。
その手も積まれた後だったわけだが。
「強行すると、いや、危険は冒せんな。この国は支部を立てたばかりだ」
ほかの魔法使いたちに嫌疑が向けられるのは許容できない。
「さて」
あたしはその場で膝を突き、
「組織で動けないのなら、個人で。盗賊ギルドで情報交換する外ないですけど...」
冒険者という単位でしか行動できなくなった。
けど、木を隠すなら森って言うし。
「よし、組織は組織の働きをしよう。が、くれぐれも無理はするな!」
これはポール君にも向けられた言葉。
あたしと、トッド君、後輩にも同じ言葉を送られた。
◆
もう一度、あたしたちは正教会が裏で運用する宿屋へ戻った。
旅支度の前の洗濯だ。
「あれ? あの場の勢いだとどこへ行くかの目星は、ついているものとばかり」
いやいや。
手を鼻先で振って見せた。
「その場の勢いは確かにあったけど、基本は行き当たりばったりだから」
「姐さま、それ自慢になりません」
風呂の支度をしている。
トッド君の目の前でだ。
暢気な奴だと笑ってくれてもいい。
「観光の街クリシュナの温泉には入りたかったんだよね」
ってつぶやいたら、
トッド君にドン引きされた。
「えっと」
本気ですか、みたいな流れ。
外見を変異させるのって、魔法でも似た効果は期待できる。
ただし、魔法感知犬とか鳥がいることは、余り知られてない。
そりゃそうだ。
例えば、国の重鎮に変装できるってんなら、利用しない手はない。
スパイ活動がより高度なものへとなれば、幻術、呪術、変装術などが発達していく。
で、あればその対抗策も、同じだけ熟達するわけだ。
「王国で何か催し物とかあるんかな?」
唐突にトッド君へ振る。
あたしは袖なしのシャツのまま、屈みこんでタオルを物色してて――
トッド君の目は、ロケットおっぱいのあたしのソレを凝視てたんだよね。
固まってたんだわ。
ん~
あれは失敗、失敗。
エルフのロケットおっぱいは目に毒だったね~
めんご、めんご




