後輩とお爺ちゃん 1
“メガ・ラニア”公国との国境にある都市の教会は、正直、ただの教会である。
正教会とも関係ないし、なんならラグナル聖国とも宗派が異なる、本当に祀ってる神の違うとこ。
神像にしたって良くよく見れば、アマゾネスかなにかに見え。
天界にあられるあの乙女神さまも「あれ、あたしじゃないもーん」てな具合に泣いておられる始末。
いや、マジでどこの神さまなんだろう。
あたしの中で、ちらっと浮かぶ残像。
宴に子連れで来てた神様だった、か。
◇
教会の手配により、後輩が引っ張り出された。
正教会の斥候も、彼女を頼っていたのだから、察しはつく。
「ようやく会えましたな」
お爺ちゃんの視線が後輩じゃない方へ向けられてる。
確かに単独で会うには少々、ものものしさに欠ける。
てか、このあたり変に見栄を張っちゃうもんだよね、人って。
「あ、いや...こっちです」
訂正される気まずさ。
間違った方も、間違われた方も。
再び、場所を移して。
教会内の応接間へと転じた。
「――先ずは、食べるか話すか、或いは息を吐かれてから、お話になった方が宜しいのでは?」
あたしのお爺ちゃんだけでなく、音にも聞いた剣星ホーシャム・ロムジーだから、たぶんどこかで大きな期待と誇張された虚像があった。それが目の前の見た目老人のエルフによって、脆くも砕け散らされたとこにある。
しゃべりながら喰う、そして口から食べ物が飛んでくる。
年齢の若い人に多くありがちな、きったない喰い方だ。
幻滅だあって声が静かにこぼれた。
「時に、」
匙が卓上に置かれる。
だが、握ったバケットはそのまま。
エルフの握力ではせいぜい、形が若干、代わる程度。
剣星の握力だからこそ、ぎゅっと絞られて。
「正教会は何処まで把握されてるのでしょうか?!」
余裕がお爺ちゃんにないらしい。
老人風の喋り方じゃない。
前から、似合ってなかったけど。
それはそれで外見とのギャップが...。
「うーん、どっちの?」
仄めかして問うたから、情報の切り出しに困ってる。
まあ、これは後輩がいずれの方向にも、通じてるとも取れるし。
或いはその裏を読み過ぎとも。
「...っ、お恥ずかしながら、この老人。神だの、邪神だのというのは、信じておりませんでした。魔獣や魔物を狩っておいてでもです」
そういう人は結構、多い。
加護だとかスキルなんてのが貰えても、結局のところ自分だ。
努力をしなければ伸びるものも伸びず、自堕落に生きて行くことになるだろう。
神さまだって、行いの正しい者を助けたいと思うだろうし。
この世界の乙女神さまは――放置気味過ぎるきらいがある。
もうちょっと関わってもいい気がするなあ。
さて。
「この度の件、まさに神のご采配によるものとしか。ただ、死んだ友の分まで生きるは、長命種として当然としても。このような生き永らえさせ方は理不尽というか...解決してやらねば報われないとも、言いますか」
バケットがねじ切られた。
悔しさは何となく伝わる。
「神の采配ですか」
剣星をして手も足も出なかった事実を間接的に。
相手の強大さを伝えてきた。
と、同時に。
正教会とは関係ない教会を指定したのも頷けた。
お爺ちゃんは教会を信用していない。