どっちを優先する? 10
あたしが6歳のとき。
お爺ちゃんの剣が宙を舞った――あたしの堕天騎士Lv.65のキャップに到達した頃と丁度重なる。
その時点で、世界最高の剣士と互角になった訳だ。
上位の鑑定スキルであれば、オープンにしてたあたしのステータス。
お爺ちゃんがいつになくマジな顔で...
「セルコットや、ステータスの偽装を覚えることだ」
なんて6歳の孫娘に助言した。
今に思えば、あたしは規格外だ。
◇
ベッドに腰掛け、
足をぶらぶら揺らす、あたし。
身内だと再度の言質を得た、大はしゃぎな彼女ら。
そんな3人の背を見ながら感慨に。
で、心象風景に引き籠ったあたし。
『そんな事は無いさ、あの場でのホーシャムは正しい』
横に寄り添うように座る人の姿。
もうただの煙のような微かな存在だけど、凄く大きくそして包容力がある。
『君が6歳だった頃はな、各地で異常ステータスの“狩り”があったんだよ。ドーセット帝国とて抗えない、強大な勢力による一方的な“狩り”だ。いや、あれは探してたのだろう...かつての乙女神がそうであったように、聖女か或いは高度な神聖系魔法の使い手を、な』
存在が肩に軽く触れて行く。
すっくと立ちあがって、すうっと消えていくのが分かる。
その存在が、あたしにも懐かしく感じること、も。
「陛下!!」
思わず口走ってた。
リアル、3人があたしを見る。
振り返る――涙を流してる、あたしをだ。
◇
かくして。
お爺ちゃんこと、ホーシャム・ロムジーの一行が、“メガ・ラニア”公国との国境都市に入る。
彼は都市に入るなりその足で、真っ直ぐ宗派・崇める神や教義の違いもあるかもな、教会へと踏み込んでいた。
そして敬虔な信者のように、女神像の前で膝を屈して深く祈祷する。
これはパフォーマンスだ。
人、ひとりひとりを観察する事のない乙女神だが。
この時ばかりは、無関心ではいられなかった。
だって、お爺ちゃんが祈った“祈祷”は、女神が今いちばん欲しいものだったからだ。
『神よ、勇者が人類を裏切りました』
正確には“あなたを”裏切りました――だったかと。
お爺ちゃんは乙女神の存在を半信半疑なとこ。
エルフの崇める神は、かなり古いもの。
今は後進に座を譲って、別の新しい世界へと...旅立ってしまったらしいんだけど。
託された乙女神がそう言うのだから、たぶん間違いはない。
さて。
1刻ほど祈祷してたお爺ちゃんは、立ち眩みを覚えながらに長椅子へと滑るように座り込む。
恐らくは休みなく馬を飛ばしてきたのだろう。
従者を買って出た教会の剣士らは、だらしくもなく床でへばってる。
時を見計らってた、神父が傍に寄り――
「何かお持ちしましょうか?」
「水か、はちみつ酒、あるいは軽食など」
気前がいいのではない。
教会へ入るなりに神像の前で膝を突いて祈ったのだ。
神殿の騎士かと思ったところ。
ホーシャム・ロムジーは告げる。
「紅の修道女殿はいずこか?!」
と。