どっちを優先する? 5
「怖いなあ。兄上さままで惹きつける、気配なんて出さないで欲しいですね。“紅司祭”殿?」
正教会の中(組織構成とか、或いは権力の争いごととか)は、あたしにはさっぱりだ。
乙女神さまも、
『千年単位なんて、せいぜい10分くらいの感覚。あれ? わりとある方ねえ、これは意外』
なんて、別の方角へ関心もっちゃって。
正教会のことは、これ以上掘り下げられないくらい表層も知らなかった。
まあ確かに、祀られてる本人の知るところじゃあないわな。
あたしだって...
誰かに祀られてるかもしれないし。
「当方が先輩のパンツを祀っています!!」
なーん。
なにそのカミングアウト。
怖いんだけど。
言ってやりました的に。
後輩の方はまんざらでもない。
しかしだねえ、その潔さが逆にだねえ......あたしは怖いと感じてるんだが。
ちょっとは、こっちも省みてほしいかな。
いや、盗んだパンツは返却希望!!
「脱ぎたて、沁みつき、香りつき。パンツは旧文明の技術! ジップロックというもので保管してのち、当方が手作りの神殿に奉じておきました!!!」
マジかよ。
洗い物を盗むんじゃねえよ! アホか、この変態。
返す前に洗って返せ!
「じゃ、じゃあさ。ご利益は?」
恐る恐る。
「勿論、家内安全! 夜伽円満に御座います。散財はしますが、財は失った倍は返ってくるので...たぶん、財運、勝負運などもあると思われますね。今のところ当方は、ご利益がありっぱなしですから。体験談としても間違いのなしなので!!!」
ああ。
そっか...それ、あたしの...その、聖水で溺れかけたは入って無いんだね。
いあ、いいんだけども。
よかないけど、その些細なことはあきらめるとして。
やっぱり聖遺物の回収を。
「ミロム女史も何か?」
「わたしも...何か欲しい」
は?
「セルコットのちぢれた毛6本と交換しない?」
え?
ミロムさんは、大事そうに畳まれた和紙から遺物を広げてた。
後輩の食指が動いた気がするけど。
大きく左右に首を振って、
「いえいえ、恥ずかしい沁み付きですよ!? そんな、誰のかもわからない毛、毛などで聖遺物を交換し合うなんてことは。当方の信仰を愚弄する気ですか!!!!」
いあ。
あんたの信仰対象は乙女神であって、あたしじゃないだろ。
セルコット教なんてのを立ち上げた覚えもないし、ましてそこの修道女にさせた覚えもない。
「信仰とは、奉る対象が誰であれ。当方がそれだと通じたものが、“神”になるんです。例えば、落ちてた小石を投げたとします――」
ふむふむ。
正教会に就職している修道女からの有難い説法がはじまった。




