ただいま、逃走中 5
「作ってもらった?!」
宗主の疑り深い目がこちらをさしてくる。
ぎらついたではなく、疑ってる目だ。
「はい、これは錬金術によって生み出された助燃剤というそうです。ポール君らを生き埋めにしようとした者は、この粉末を予め密閉された空間内でばら撒いておき、彼らが来るのを待った。地下闘技場には、これも必然的にですが、いつか必ず訪れる者があると分かっている訳ですから。その兆しを見極めて行動するのはそう、難しい事じゃあありません」
と、推測を述べる。
ミステリ文庫の謎解きみたいなシーンだわここ。
んで、あたしは得意げに。
「調査している人間たちは、残念ながら、追われている者たちに知られています。だって、その為に協会を巻き込んだんですよ。正教会は敵に回すのにはちょっと騙しにくい相手でしょう...手の内に納めたとしても、王国は疑いはしても行動は慎重に成るだけですし...だけど、大国から来た魔法詠唱者協会は未だ、根が浅い! そのスキを突かれたんです」
決まったーって思ったのは、あたしだけだ。
心象は最悪で、宗主の顔は険しくなってた。
「なるほど...出る杭は打たれると?」
トーンは低く、ポール君とその場にある導師たちの目も怖い。
あたしに向けられてる訳じゃあない。
後輩からのフォローでそう聞かされたけど。
チビりそうなほどに空気が張り詰めた。
「続きは、あるかね?」
君の見解を聴こうって事だとは思う。
後輩があたしの前に立ち、
「先輩の推測に正教会側からの見解も添えると、魔法詠唱者協会はいいように利用されたという事実です。そして、これは当方の意見でありますが、知る限り協会は敵ではないという事もです!」
当たり前だという声は出る。
分かる。
分かるけど、それは接したあたしと、後輩、この街に来た審問官と...その従者たちだけ。
正教会すべて総意ではない。
で、宗主はそれを理解してた。
「錬金術、か」
公にされれば、ひとつづつ積み上げた信用は失墜する。
地下闘技場を爆破したからではない。
乗合馬車の案内所を吹き飛ばした方が重く、その事故で人が死んでいる事実だ。
一般では使用されていない事も、協会には負い目に成る。
作った者たちが、使った。
なんて言われたら...
「幸いではありませんが、敵さんは協会を踏み台にして王国も貶めるようです」
って、後輩は告げた。
あたしも目を点にして聞いてる。
あ、えっと...何、それ?
「簡単な話ですが、正教会の目が王宮で見てたんです。...国王に献上した“粉”と南蛮商人をそして、大量に注文してたこと」
要するに市井に出回っていない助燃剤が、どういう経緯で城外へ出たかを追求されると、王宮の倉庫からではなくとも、市民が抱く王室への不信感は深くなるという。
不信感は些細な事の方がいい。
その時には忘れられても、また、似たことが起きれば堰は脆く崩れる。
「ってことは...市民の扇動?!」
思わず口走っちゃった。
宗主も冷たくなった手で口を覆ってる。
あたしと同じことを言わないようにしてたようだ。
力持つ者が安易に呟いてはいけないという。
言葉には力がある
◆
旅支度を終えた名士の息子は、用意された死体をまじまじと見ている。
「これが俺か」
引き攣りながらも、狂気に満ちた笑顔のように見える。
ただただ滑稽にみえる木偶だが。
やや、気の毒にも。
「坊もそろそろ口調、変えませんと」
青年は、喉仏を押さえながら、
声の調整に入る。
一人称も「俺」から「ボク」に変えた。
これから別の人生が始まる。
侍女はメイド服を脱ぎ、燕尾服へ。
レイピアを帯刀している。
扇を持つ和装の男はそのままだが。
前髪をかき上げた。
右の顔半分に火傷跡がある。
「さて、成果を持ち帰ろう!」
って、青年は屋敷に火を放ってた――。
【正教会の協力者】
〇紅の修道女
通り名:紅の修道女
特徴:大きな瞳、げじげじな眉を持つ少女。
女神信仰を旨とする教会勢力に潜伏中で、耳聡く活動中の暗殺者。
大主教の右席に列する審問官という話。
種族:まる耳エルフ族 / 年齢:14歳(くらいに見える)
(吸血特性を持つ)
階位:ゴールド・チョーカー
役職:巡行の修道女 / 異端審問官(序列4位)
職業:プリースト / アサシン(手練れ)
年収:(マジでわからない、羽振りはいいのだけど)
個人技:舌技 竜殺し
〇蒼炎の魔女
通り名:蒼炎の魔女
特徴:薄緑色のシャギー、細い眉をもつ“紅”と同い年。
バストは巨乳で、14歳には見えない大人びたボディだが、先輩セルコットにメロメロである。
種族:肉厚たれ耳エルフ族 / 年齢:14歳(くらいに見える)
階位:ゴールド・チョーカー
役職:教会の番犬 / 左席の騎士団(序列2位)
職業:ウイッチ(手練れ) / パストゥール
年収:もはや未知数
個人技:指技 堕天
【魔法詠唱者協会の協力者】
〇宗主
通り名:(不明)
特徴:絶倫の老導師と呼ばれ、愛人の数は足の指まで駆り出さざる得ないほど。
腰が丈夫で、白子が濃いハゲ。
種族:人間族 / 年齢:90歳以上(考えるのを止めたらしい)
階位:グランド
役職:宗主 / グランド・ウィザード
職業:メイジ
年収:金貨1000枚
【秘密結社アメジスト】
大陸から渡って来た巨悪。
すべての悪事に関わり、すべての悪意に拠る。
テロリスト集団。
〇マディヤ
マディヤ・ラジコートと名を変えた、クリシュナムに潜伏してた“石”のひとつ。
20歳前後の容姿で、影が薄く印象に残り難い――所謂、認識阻害の法に秀でている者。
一人称は「俺」から「ボク」へと変化。
通り名:(不明)
種族:たぶん人間 / 年齢:20歳前後(観測者次第で変化するみたい)
階位:(不明)
役職:(不明)
職業:(不明)
年収:(不明)
〇ナシム
マディヤ・ラジコートの侍女。
燕尾服姿にレイピアを帯刀する以外は謎。
普段から瞼を閉じ、マディヤのためだけに行動する。
通り名:(不明)
種族:たぶん人間 / 年齢:15歳前後
階位:(不明)
役職:スチュワート
職業:剣士(相当に手ごわい) / ウイザード(手が付けられない)
年収:(不明)
〇アグラ
マディヤ・ラジコートの従者が一人。
扇を持ち、茶褐色の長髪、右半身に火傷の跡がある。
凄腕の剣客であり、目つきの悪い呪術者。
通り名:幻影の千本刃
種族:たぶん人間 / 年齢:40歳前後
階位:ゴールド・チョーカー
役職:従者
職業:サムライ(ソードマスター級) / ソーサラー(ネクロマンサーにも寄る)
年収:(不明)




