どっちを優先する? 1
天界でのあたしを他所に。
卓上に「まな板の鯉」となってるあたしの身体は、と。
3人の心と、欲を満たした挙句。
それぞれが部屋の隅で伸びてた。
いい加減にだが。
可哀そうだと思って、その身体に毛布なりシーツなりと布を被せてやくれ...
ちょ、ちょい!!
「こ、後輩ちゃんまた?!」
左手で鼻血を押さえつつ、あたしの股へ顔を埋める。
震える舌先に湿った園が触れる。
「あ、あふっ!」
「無茶しやがって!!」
ヒルダは床で横になって痙攣してる。
えっと、何? スタンでも喰らったん。
「ふたりとも、体力は?」
ミロムさんが這ってポーションを集めてきた。
彼女も腰が立たないほどのダメージが蓄積してて。
腕の力だけで、前に進む。
これが匍匐前進。
◇
後輩はポーションの代わりにあたしに吸い付いてて。
「先輩の聖水の方が効果高いんで!」
聞かなかったことにする。
彼女は最初から“聖女”の当たりをあたしに、定めてた。
あのジト目はそういう事だ。
「分かるけど、分かるけど...効果覿面過ぎて、栄養価高杉。いや、そっち通り越して私は5回噴いたよ?!」
――信じられる?
なんて言葉が続く。
ま。
っす、要するに。
あたしに悪戯したら、乙女神の整備したパスのせいで、腰が砕けるほどの高濃度霊障に遭遇したというのだ。一瞬、アケローン川が見えちゃったとか。
それぞれに思うところのある、黄泉の国が見えたとか。
ほ~ん。
まあ、そんな事は言いから。
あたしに毛布をプリーズ。
「紅の修道女さまはご在宅で?!」
扉一枚の向こう側から、良く通る小声が聞こえてきた。
顔いっぱいにあたしの汁を浴びてる彼女。
返事が出来るような状況じゃないから――床で這いつくばってたミロムさんが。
「いますけど、手が離せないようで」
扉の誰かが身構えた。
うーん。
3人がそれぞれに手練れだから、腰から抜き放った獲物のソレは手に取るように分かる。
利き手に小剣、刃渡りは40センチメートルくらいで。
左手に手斧。
典型的な、教会の斥候部隊。
「あががが、ごが、ごびごぼぼぼ、ごべ。ぼががが...」
「何言ってんか分らんわ!!」
転がっててスタン喰らってるヒルダが吠えてたけど。
扉の殺気が消えた。
いや、いなくなったんじゃなく矛を収めたようで。
「あんなんで通じるのかよ?! セルコットのおしっこ呑みながらどんなセリフだよ!!」
台無しだ。
およそ、かっこよくキメたであろう後輩の。
その啖呵に、よりにもよって...おしっこでキメてるとか。
「ぐぎゃああああ、ぎゃぼごが!!」
たぶん反論だろう。
あたしも何言ってんか分らんけど、怒ってるのは分かる。
「で?」
「申し遅れました。この扉を挟んでのご挨拶に申し訳ありません」
ごぼぎゃごば...あたしのおしっこも長えなあ。
あ、えっと後輩は聖水と呼んでたか。
「ねぎらいの御言葉、痛み入ります」
通じてるのが怖い。
ミロムさんが上体を起こす。
「何かありましたか?」
「私は正教会の者でして。教区のハトから剣星さまがセルコット・シェシーさまをお頼りに、こちらへ合流されるとのことに御座います」
なーんだ。
は?!