いつかどこかで、交わる道 3
密かに女神正教会から王宮へ、
剣星ホーシャム・ロムジーが生還すると伝えられた――皇帝の死は確実なものとされたが、すでに空の棺で国葬を済ませた後だから、皇族の中では2度目の葬儀となった訳だけども。
国民には、その悲しい話は伝えられなかった。
さて、帝国に伝えられたのは、勇者の背信行為のみ。
いや、正確には勇者が謀って、皇帝を貶めた事と伝えた――あの時点では、そういう風にしか見えなかったからだが。
教会の巫女を通じて、乙女神にも事実らしい情報が伝わった。
まな板のあたしが次に呼ばれたのは...
沐浴中にだが。
えっと、湯船に浸かってるあたし、ふやけないですか?
◇
親切な“乙女神”の御使いから、
湯船に沈んでたあたしを助け出すヒルダさんとミロムさんの姿が。
「たぶん、大丈夫です。ただ、まあ...こんな状態で悪戯されちゃったら...諦めちゃってください」
え?! や、嫌だよ。
な、何を諦めるというのか。
「貞操の危機ですかね。あ、でも...女の子同士の指で擦り合うとか、ワンチャンでセーフですし。セルコットさんの権利は剥奪されません!!」
んー?
「例えば、師匠さんとか...人狼の方々につまみ食いとかですかね。破瓜しちゃっても、乙女神さまとのチャンネルは閉じませんから。安心...して、その御心にゆだねちゃってください」
ちょっと意味深な、間があったのは。
あたしと、
乙女神とのチャンネル?
そういうやり取りの中、
あたしは再び、腕一杯にタオルを抱えて女神の前に立つ。
後ろから見られたら、割れ目が見えるかもしれない...非常に恥ずかしい格好でだ。
『ねえ、まな板?』
きょとんとしているあたしに。
彼女は『ちょっとその場で回ってみる?』と命令してきた。
女神曰く“お願いでしょ”と言うんだけど。
それは命令ある。
回らなければ、
『そっかあ、そういう反抗的な態度をとるわけかあ』
なんてどっかの宗教にある巫女が発狂した。
これは脅し。
脅迫――女神の気分を損なえば、どこかの誰かが苦しむのである。
あたしだけなら何されてもいい。
状態異常無効化のチート級な加護により、乙女神は手出しが出来ない。
でも、この脅迫は回りまわって親しい身内に巡ってくるものだから。
「あーはいはい!! わかりました、わかりました。だから巫女さまの正気を取り戻させてあげてください、お願いします」
と、同時にその場でぐるりと、反時計回りに回って見せた。
タオルが邪魔だなあとまでは言われなかったけど。
喉が鳴る音は聞こえた。
『――まな板でも恥じらいは、あんのか』
ったりまえでい!!
滅茶苦茶恥ずかしいわ。
御使いさんから渡されたタオルはどれも短いし、とにかくくしゃくしゃに抱えれば。
範囲は狭いけど、乳房とデルタゾーンの上の方が隠れて、あとは影の中に。
屈めば見えるだろうけども。
ああ、何?!
鼻息を感じる。
玉座からひょいっと飛び降りた女神が、あたしの貧相な身体に興味津々。
『腐ってもエルフ、この蒙古斑は...なに、100歳未満ってとこ?!』
応えずらいなあ。
子ども扱いされるの?
『まあいいよ、生娘の匂いするしさ。ぺたんこでも育て甲斐があるのって、あたしは好きだからさ。うんうん、勇者の失踪事件についてお前、まな板に特別な任務を与えよう!!! この世界には今、神々の権威を侵そうとする輩が入り込んでいる。これに抵抗するべく勇者召喚を行ったのだけど...』
目を放した隙に、彼女の手が届かないところへ連れ去られたとのこと。
ああ、バカだよこの神さま。
『今の暴言は聞かなかったことにする』
干し葡萄が摘ままれる。
痛いんすけど。




