ただいま、逃走中 4
「名士の息子が怪しい、と」
宗主が自分の股間を見る。
付き添いできた魔法使いは、咳払いした。
「そっちじゃないですよ」
「儂のは大人しい方じゃぞ、今朝も魔女ふたりで済ませた...燃費がよい」
皆が今、やや否定的に言葉を添えようとしてた。
が、やめた。
あきらめたと言い換える方が良い。
大概の魔法使いは40歳までDTであることが多い。
魔法の習熟に人生を賭けたり、研究で忙しかったりする。
修行僧みたいな者もいるし、
或いは平民出で許嫁があったにも関わらず、魔法使いになるとか...そういう奇特なのも。
で、気が付いたら40歳。
あれ? 自分、今まで何してたんだろって曲がり角に立つ。
彼女もいないし、遊びもわからないDT誕生って...なんじゃ、そりゃ?!
◇
「怪しいという理由では、な。しかも、そろそろ終息させねばならん頃合いだ」
“妖精の粉”は検出しなかった。
確かに何かしらの怪しさはあった。
港街クリシュナでは噂どおり、亜人たちの死体があっただけで、使われてたかもしれない施設を失ったことで調査は終了せざる得なくなった。いや、継続的に情報収集はされるだろう。
ただ、公ではない。
あまりしつこいと、王国の騎士団を招き入れることになる。
「それでも調べるのならば、好きにすればよいと...しか、儂からは言えぬ。ただし、協会の全面的なバックアップなんぞは期待する出ないぞ? ポール、お前の職分だけでなんとかするんじゃ」
と、ポール君の言い分を退けた。
協会の苦しい内情だ。
で、お爺ちゃんの鋭い視線があたしに突き刺さる。
朝、2発も発射った精力の目がギラギラしてる、わ。
「ふむ、正教会の調整師か...見事じゃな、やや斜めにズレておった軸がまっすぐ戻されておるし、ステータスも幾分か強化されたのではないか?」
見る人がみると、そんな風にみえるのか。
あたしは頷き、
「INTはそのままだけど、MNDは3桁上がりしたよ」
って、何だろう、ずっと誰かに話したかったというか。
お爺ちゃんの方は、
《INTそのままで、MNDが上がるか...解せない娘よ?》
って考えてたっぽい。
まあ実際にスーリヤさまの見立てとご褒美により、LUKは999でカンスト。
幸運値って3桁までなんだよね、他のステータスは4桁まであるのに。
“神の寵愛”という加護も、もらった。
これは推測として状態異常への高い耐性能力に転換されてるっぽい。
後輩が...舐めたあと。
のどの痛みが引きましたって、あたしのを風邪薬みたいに言ってた。
吸血行為ができる...エルフ族の特性かも知れないけど。
そんなこともあった。
「ポールの件はこんなもんじゃ。さてと、どうしよっか...のう」
クリシュナの件はこれで仕舞にされる、表向きの話。
正教会だってクリシュナの教区長を王都まで連行して、拷問官に引き渡す手配が粛々と行われている。故に“蒼炎の魔女”が召喚されたわけだ。
単に観光で来たわけじゃあ、ない。
「この間の検死ですが」
「ほう、何か分かったか?」
報告書は挙げた。
握ってた銀貨は王都行きの馬車代として考えられる。
しかし、王都だと思わせて別の港街という可能性も、なくはないとやはり曖昧だ。
「“粉”です」
あたしの指先にきらきらと光る粉がある。
部屋にある者、すべてが口を覆った。
項垂れてたポール君でさえもだ。
「大丈夫、似て非なるモノ...協会の錬金術師に作ってもらいました」




