邪神教という者たち 10
勇者たちが閉じ込められてる空間は、敗戦者たちの怨念で埋め尽くされた場所。
主神たる乙女神に背信している信徒でも、この階へ降りてくるには命がけ。
抵抗力が無いから、高位の神官たちの救い手が必要になったり。
または、そのまま神官とともに降りていくしか出来ない。
そんな場所に放置してある勇者たち。
彼らの身体も無事では無いわけだけど、やっぱりタフかも。
今のところ柔らかい大事なとこが痒くなるか、頭や腕からキノコが生える程度に済んでた。
うーん、規格外。
◇
ザックの他愛もない言葉は、正教会でも研究されてる“天上戦争”に繋がる。
かつて神々は、天上の意思に背いた者たちを罰したという記録があった。
今までは口伝による御伽噺だったけども。
乙女神による失態によって、記録されたものが出土してしまった。
チップ代わりに消失した文明の叛意ってとこだろう。
そこで使われたのが“神喰らい”或いは“魔槍”だと呼ばれる武器だ。
神の代理人である勇者を殺せる武器として作られた。
勇者が持つ武器ではなく、
勇者ではない者が持つ武器としてが、興味深い。
ではなぜ、勇者ではない者が扱えるのか。
考えられるのは、神々の遊戯というのが勇者と戦う者たちは、人代表である可能性。
或いは暴走した勇者に対応するため。
規格外同士では、懐柔されるかもしれない。
後者の恐れは現実味がある。
何せ記録が残った失態と言うのは、その勇者がチップにされた人類を救おうとしたこと。
つまり造反されたのだ。
「――っ、それまでの盤上には、それぞれの勢力の勇者が用意されてた、ってんだから驚きだよな。手癖の悪い勇者様は、チップになった文明に囲ってた女、いや男だったかがあって。まあ、結局のところ駒は人外から人に堕ちたって話さ。...以来、この遊戯は賭けられる人が、人外に挑むもんへと変化した...その過程で、勇者殺し或いは神喰らいの魔槍は存在し続けている」
ザックの解説。
これは彼の中にある邪神の記憶みたいなものだ。
彼自身が存在を知覚している訳じゃない。
「まあ、唐突に昔語りみたいなことを言われても対処には困るが。勇者が殺せないってのは現状、変わらんわけだよな? となると...ザックの言う、存在する“魔槍”を探すとしてだ。いまいち頭にスっと入ってこない内容だが、もう一度確認する!!」
神官のリーダーっぽい。
ローブは黒色でいかにもだし。
牛の頭骨を仮面代わりにしている者たち。
臭くないのかなあ。
「遊戯が開催されるのは今時代で、駒の数はこれ以上増えないわけだな」
確認と言うのは、邪神が持つ遊戯の知識。
ザックを通して崇拝してた者の意を確かめてる。
傍目から見ると畏れ多いような気もするけど。
この世界は神さまと、人がだいぶ近い。
だから、あたしみたいに繋がる人もでる
これは逆に邪神認定されてしまった、神格を失った神にも言える。
「俺の中に“あの方”は断言している。天上のルールが変わらなければ、一度に召喚される勇者の数は最大で6人。あとは、その世界の神が遣わす“聖女”の存在だけだ。勇者とともに行動する男女は、あくまでも冒険の補助要員でしかなく、本来の盤上で守護し支えられる存在の代わりと、でも言うか」
ちょっとざわついた。
この辺りのつっこんだ話が、未だだっただけ。
「6人は掌握した。...が、お前の言うところの“聖女”か。男性だと“聖人”にでもなるのか...或いは賢者か王か、何れにせよ。盤上の駒の再召喚が無い、でいいんだよな?」
男は頷く。
邪神教の狙いは、崇拝する神の復権である。
駒の無くなった乙女神に今一度、文明をチップに戦いを挑み、そして勝利するのが願い。
ま、そんなとこである。