邪神教という者たち 9
さてさて。
後輩ちゃんの視線が痛いので、背中を向けた訳だが。
こう背後から刺されて、まな板まで突き破る眼力ってのは――正直、あ、あたし。彼女に何かしたんかな。こ、これ...なんかヤバいもんがあるって事だよなあ。って取り乱しかけてたとこで、女神の抱擁よろしくミロムさんに優しく包み込まれたところ。
あ、いや。
前からではなく、あたしの背中越しに覆い被さるように。
ミロムさんと後輩が唸ってるのが聞こえる。
あ、あれ。
これは、あたしの取り合いですか。
「で、だ。――神さまの加護もない。いや、加護はあるけど、応援が届かない者同士の戦場だけども、実のところさ。これは今まで、恵まれてたんじゃねえか?」
アイヴァーさんは嵐を起こす気か?
ケチはつける気はないと言った。
が、ずっと懐疑的だった。
教会がぶっちゃけなければ。
その疑問は外に出なかったかもしれない。
「帝国と王国の力は、過ぎたるもの。降臨した勇者にまま匹敵すると考えて良さそうだな? あ。いや、待てよ待て待て...ちょっと待て!!」
何かを思い出したようにアイヴァーさんが皆の思考を止めさせた。
あたしは何も考えてないけど。
◇
皆の前で、ひと指しゆびをあげたまま。
「天上戦争ってのは、伝説上、勇者を使った神々の娯楽だと言ったな?」
なんかそんな話でしたね。
この遊戯は、人々に知られてはいけない秘密の遊び。
神々への信仰が揺らぐ恐れがある。
そういう意味では、記録されたものが出土したのは――乙女神の失態に繋がる。
「今回の勇者召喚も要するに、その遊戯の為って事だよな?」
ああ。
かも...
あ、だから失踪した勇者を、あんなに必死に探してたんか。
いあ、待って。
見つけちゃうと、この世界が石器時代からやり直しになるんじゃ?!
うへー。
生魚を柔らかいところから齧りついて、食当たりで倒れるような生活に戻りたくない。
獲ってきた肉に齧りついて、ハリガネ蟲の親戚みたいなのに寄生されたくもない。
あんな、生活は嫌だよー。
「どうしたセルコット?!」
師匠があたしの名を呼んでくれた。
いや、苦悶、苦痛、苦悩と顔芸が多彩過ぎるので、心配してくれたのだという。
ミロムさんの腕が頸動脈を圧迫しているからでは無いんだけど。
なんか苦しい。
◆
戻って、古戦場跡の遺跡の中。
勇者たちが押し込められてるのは、カビを放置した掃除してない墓所みたいなとこ。
目に見えないバイ菌やら、微かに聞こえる幽霊の声?
マジで何日も居たくない場所だ。
お爺ちゃん勇者はカビに寄生され、
頭の上にキノコまで生やしてるけど...なんか元気そう。
「お爺ちゃん、それ? き...」
頭の上のキノコを捩じり切る。
痛くないのか採れたてを皆によーく見せたとこで、食った。
「「うわあああ」」
勇者のメンタルが揺らいだ瞬間だ。
「何事もない、いたって普通の味じゃて。ワシに毒を盛ったっちゅうから、また、あのなんともい言えぬしびれ具合を期待したんじゃが...ふむ、残念じゃあ」
残念じゃねえって声が飛ぶ。
新入りの勇者は、乙女神のギフトを幾らか貰い損ねてる身。
それでもこの異常なことに、それなりの順応差をみせてる。
この成果は、異世界へ渡ったことが関係するようだ。




