邪神教という者たち 7
と、そういえば。
神の声が耳に届くものに“聖女”としての才が目覚めるとか。
なんとなく胸騒ぎがする。
こうざわつくような、胸騒ぎがだ。
勇者降臨の折。
あたしは、王国での修行から一時帰国って形で、爺ちゃんの下にあった。
爺ちゃんとは朝から、修練に付き合わせちゃって。
たしか...
そう、そうそう。
ふたりして正教会からの有難い説法を聞き逃したんだっけ。
乙女神が信心深い者たちに美声を轟かせて――
あの腰痛持ちの中年勇者を遣わせた訳だけども。
そうだ。
あの時確かに乙女神の高飛車な哄笑が響いてた。
あー。
いやあ、あれ~。
あれれれ~
ちょっと待ってくださいよ、お〇みさん...
帝国の三の王女は、聖女が自称だと言った。
うん、後輩から聞いた。
確か...そう、あれは逗留してた帝国の宿屋でもだ。
何故か隠れて宿泊してたのに、彼女はあたしの部屋で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたっけ。
朝も昼も、もちろん夜のお努めとか理由をつけては...あたしのトコに来た。
◇
おっと、後輩ちゃんの視線が熱いぜ。
「故に、あの場にあったすべての女性には“聞き取り”を行ったんですが、皆は口々に『我こそは、聖女なり』なんて言うんです」
そりゃそうだ。
勇者一行の最前列で、ちょこちょこっと魔法で支援するだけでいい。
勇敢なる男の背中を見ながら、夜のおかずはこれで決まり!!!ってな、活動写真が見れるのだから。
それだけじゃない!!
もっとも、ここからが世の中の人が「なりたい」と思う理由。
贅沢な暮らしと、生活の保障、十分すぎる給金が出る。
あたしはガッツポーズしてたよう。
ガッと、後輩に睨まれた。
なんだよ...
どうした? 生理か?
「結果的に言うと、ひとりには逃げられて聞けませんでした。普段からぼーっとしてて、神だの馬面の御使いだのの声が聞こえて、ほとほと迷惑しているとか妄想か、虚言かを吐くどうしようもない女性何ですけど。高位の精霊みたいな長命なる人類として...当方も扱ってきたわけですが」
ほう、そんなダメな子いるんかよ?
後輩の手を煩わせるか...
「毎朝の禊前には、夢語りでもするように。神とその御使いの話をするんですが...」
禊ってか、沐浴な。
寝転がってるだけなのに、脇汗が凄くて。
これに乳房が寝返り打つたびに、零れ落ちてたらと思うとぞっとする。
乳房の付け根と、見えない下乳は汗疹で感心ならん、絶望的な皮膚病になってるわ。
まあ、ヒールあるけどさ。
風邪を拗らせて治癒魔法って使わないでしょ?!
生活魔法の盲点。
治癒魔法って、生活に密着しないんだわ。
「そして、本日の朝!!」
ばばばーんって、何処からともなく卓上が叩かれた。
えっと、弁士になった?!
「とうとう、当方もあれが虚言ではないと知ったのです!!」
はい、なにが。
おい、後輩ちゃん怖いよ、その目は怖いよ?!
「このエルフ! 神の啓示が聞こえているんです」
宗教家の言葉の力って怖いね。
今まで痛い子だと思われてた、あたしが“聖女”になったよ。
てか、神の声聞こえるのって...宗教家なら、ねえ。