邪神教という者たち 6
呼ばれた男、ザックは頭の後ろに腕を組み。
天上を仰ぎ見ながら、
「勇者殺しの武器、そんなのがあれば...いいんだがなあ」
乙女神が召喚したのだ、例えば勇者らのシステムに、何かしらの不具合が生じたとする。
例えば、彼女の声が耳に届かなくなるとか。
またあるいは、与えたスキルで非人道的な行いをするとか。
この場合の非人道的と言うのは、勇者の常識とか、現地人の常識ではなくあくまでも“乙女神から観た常識”という範疇の中である。
彼女が世界の中心であって、彼女の慈悲によって生物は繁栄を赦されているという教義。
そこの無神論者の方も、他の神に信奉するあなたも...
怒りの拳は、女神に見えないようそっとしまって欲しい。
勇者が暴走した事例は...
なくもない。
てか、異端審問官である後輩は、それとなく。
教会に残るある秘密の開示を披露してくれた――あたしが無知を装って、彼女に乙女神と天上戦争の経緯から語ってもらうことにした。いや、してもらったと言い換えておく。
◆
天上戦争の起こりは、
至極単純な話から――世界の中心柱となったばかりの乙女神の失敗談から。
世界は丁度、3000年という周期で文明が『ゼロ』に戻るよう出来ているという、古代遺跡から出土した辛うじて読めそうな文献の翻訳によって、知ることになった“歴史”だ。
さてさて。
勇者システムってのは、神々唯一の娯楽なのだという。
あ、いや。
先述の文明崩壊は、この遊戯の為の担保なのだ。
ひでえって思うよね。
栄えている人間の文明・文化の数だけチップとしての価値があり。
この遊戯に負けた神は、その神格をこの世界で喪失するのだという。
逆に中心の神である“乙女神”から神格を奪うことが出来れば、晴れて、この世界の支配神となるわけ。
そんな遊戯で大事なことを決めなさんなよ、まったく。
「勇者は、各陣営の選りすぐれた兵士として決戦地に向かう!!」
後輩の言葉に力が籠る。
ま、要するに遊技場に集まるようシステムに組み込まれている。
その過程で強敵と戦い、力と自信と幸運を身につけるのだという。
ほほう。
あたしのように、か。
「勇者が降臨するときに、その場にあった高貴なる女性が“聖女”に選出され...」
後輩の台詞に相槌でもうつように。
「それで三の王女の姉さんが!!」
身内はすべて単に、自称か詐称でもしているんじゃないかって思ってた。
可哀そうなことすんなよ。
あれでも線が細くて、心細いからってあたしの腕に絡みつくようにしがみ付いて...勇者の天幕へ逢引しに転がり込むような下半身の緩い女の子だったんだぞ!!! ん? えっと、それは...まあ、いっか。
「本当に聖女だと」
「いや、あくまでも本人だけしかわからない。神の声が届くものが聖女としての才に目覚め、勇者を献身的に支えるものだと...文献では書かれてたけども。正教会の枢機卿連中は物凄く疑ってた!!」
なにに。
いや、なんか聞くのが怖いな。
三の王女が自称してる感じがして。