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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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春は戦いの季節 5

 勇者の視線が気になる。

 爺ちゃんの信奉する神は“エルフの神”で。

 女神正教からすると、蛮族の信奉する旧いものだという。


 まあ、それはあたしの信奉する神さまとて、同じことなんだけど。

 信教の自由くらいは帝国にだってあるし。

 神々の宴に招かれた各柱のように、未だ、すべての人々が“乙女神”を信奉しているわけではない。

 だから、やや傲慢な乙女神だけども。


 他のかみとの饗応くらいはしなくちゃいけないらしい。


 うん。

 される側も、する側も面倒だと思ってるから。

《なんだ、その目は...》

 わき腹に刺さる刃は上向き。

 抜いて、即座に回復魔法ヒールを唱えることが出来れば...

 いや、それが出来ないようにしたのだから。

 抜けば即座に出血死になる。

「大丈夫か?」

 爺ちゃんは、皇帝しんゆうに動けるかと問いたいところだけど。

 考えていた言葉と、口からついて出たものは違った。

 大丈夫そうに見えないのに、大丈夫かって。


 呂律が回らない。


「ふふ、貴様でも慌てることがあるのだな」

 皇帝の皮肉か、或いは意地悪か。

 左わき腹のナイフは抜けそうにない。

 気を抜けば、締めている筈の筋肉が一気に緩みそうな雰囲気がある。

「一服、盛られたかな?」


「それは無いと思うが。恐らくは加護が、肉体の強化にまで浸透してたのだろう。ひと柱のみの世界がこんなにも脆く、そして頼りないこととは思わなかったな...」

 別の神を信奉している爺ちゃんでも、

 乙女神からの加護を受けなくなると、いつもよりも数段動きが鈍くなった。

 対する中年勇者の逞しい事。

「な、なんだ...その余裕は?」

 思わず皇帝は、勇者に声を掛けてた。

 三の王女こと娘の前でもあるし、教会との距離感もあったから。

 極力、関わらないように努めてた。



「驚きですね、まだ...こちらに気遣う余裕があるなんて」

 が、勇者の口からでた言葉だ。

 卓上に肘をつき、右利きの手に二股のフォークがある。

 ハムのように薄く切りだされたロースト肉で、遊ぶさまは退屈そうにも見えたんだけど。

「エグマンさん!」

 勇者に声を掛けられた市長が、驚いたのか甲高い声で鳴いた。

「(フォークを振り回しながら、)...陛下らの食事には、麻痺毒か何かでも混入させておいた方が、後々で考えたらよかったかもしれませんね。これは貴方のミスという事で、報告させてもらいます!!」

 市長の情けない声が響いたけど、身動きが取れない皇帝の周りに護衛の騎士が集まる。

 爺ちゃんによる指揮の賜物。

 でも、たぶん遅かった。

「往生際が悪いです!!」

 死角から、すっと刃が入ってくる。

 皇帝のがらんどうになった、右の腋の下から侵入された。

「ごふっ」

 無精の口髭に血の泡が。

 爺ちゃんも騒然としてたんだけど。

 皇帝自らの腕で、突き飛ばされてた――『お前ひとりならば脱出できるだろ!!』

 これが武神と呼ばれた男の、最後の言葉だった。

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