春は戦いの季節 3
エグマン市長に歓迎された勇者一行は、遭遇でのもやもやを解消しないまま、街の中心街へと歩む。市長の胡散臭さも解消していないし、問題の解決どころかそもそも論、何もはじまっても居ないのだ。
ただ一方的に、視線を感じるだけ。
前情報でも明らかにはされてなくて。
ただ結果だけがある。
この国で、勇者が失踪した――と。
◇
街に入る条件として。
「武装解除は...まあ、当然でしょうな」
帝国でも、他国の軍隊が逗留するなら“条件”として提示するだろう。
あくまでも治安上、双方において最低限のすり合わせは行う。
軍隊からすべての武器を没収するのは難しい。
だったら入城を拒否して『悪いけど野宿してね』が正しい判断だ。
この処置に駄々を捏ねる国は存在しない。
いや、する筈もない。
侵略者じゃないなら、猶更に。
旅団の目的が“旅”であるならばだ。
「だが、有無を言わさずに剣と槍、盾が奪われた...身に着けた鎧こそ没収されなかったが。これも脱げば即座に没収されかねぬ」
爺ちゃん的には『そんな被害妄想な』って、親友である皇帝の言葉を流してた。
やや、過剰。
そんな言葉でまとめてた、かも。
その時までは。
◇
皇帝の目は勇者に注がれる。
注意を払うのではなく、彼に注目していると言った方が正確で。
爺ちゃんも、親友の行動に疑問を持ってた。
「何を見ている?」
爺ちゃんに諭されて、
「うむ、今しがた勇者のナイフが没収された。護身用だと言うのに、あっさり手放し当たりの不用心さに聊か怒りが湧いてくる...と、思うてな。勇者である自覚が足りぬ!!!」
護身用のナイフは、目の前の卓上にある肉を削ぐのにも使う。
使ってるところ見せないのがプロなのだが。
剣術の訓練でも、勇者が“らしく”あったことなどは無い。
記憶に残っているとすれば、どうサボるかの方に思われる。
で、3分後の姿だ。
解せないことなど、勇者にまつわれば、いくらでもある。
そう、いくらでもだ。
「我らは剣を失っても、技は奪われはしまい」
少し宙を見る爺ちゃん。
思うところがある。
「なんだ?」
「いあ、な...その技も...おそらく封じられてると見る。桟橋に足先をつけた瞬間から、精霊の声が聞こえなくなった...マナも感じられぬ。これは乙女神の加護の喪失とみている」
思わず声を挙げそうになった。
皇帝は己の口の中に木の根のようなサラダを放り込む。
口の中の水分が吸われるようだ。
実に、味気ない。
「なんだ、この...噛み応えのある、むむむ...甘みも?!」
「ああ、それは人参だな。“大傘歩行茸”が傘に載せてた事で発見された、根野菜というものだ。今のところ、どこも改良中だから滅多に食える代物じゃあない!! 陛下さんはもしや? 固くて不味そうに見えたから、庶民の食べ物でも出したんじゃあねえかと思ったクチかい」
ちょっと揶揄いつでに嗤ってみた。
人参は未だちょっと野性味がある――あれは苦い。
甘味があるのは根に栄養が蓄えられているか、採ったものを冷たい場所で寝かしてたか、だ。
この国では雪の下に、栽培した“野菜”を寝かしつける技法がある。
コストが高いので、裕福な者たちしか口に出来ないんだけど。
一応、もてなされてた訳だ。