春は戦いの季節 1
あたしたちの居る島大陸は、4月になると熱くなる。
いや、何処も一緒だろって思うだろうけども。
そこが尋常ではない!!
この島大陸に来ておよそ...あ、えっと、ぃえぁ...何年だっけかな。
いや、いやいやいや。
と、兎に角...ちょっと長いんだけど。
4月は他の国の6月みたいな気候になる――じゃ、2月や3月は涼しかったんじゃないのかって...そう思うでしょ?! それがどっこい。滅茶苦茶寒いんだ!!!! これは洒落に成らん。
冒険も遠出にも向かない季節ってのはある。
3月こそは未だ、温かいかもしれないけど。
1月、2月...いや、去年の秋口からがヤバかった。
11月から急に寒くなるんだもん。
おしっこで家の外に出たら凍死?! さえもあるほどに。
貧民にはトイレなんてもんは外にしかない。
貧しさを舐めんな!!
さて。
そんな寂しい話は置いといて。
4月になると...いあ。
春になると、少々厄介なことがある――夏のように馬鹿げた暑さだけでなく、それぞれ生物にとっての“生存煩悩”なる季節の到来である!! 植物・魔樹の一角“槍葉杉”や歩く菌類“歩行茸”をはじめとして、獣類代表格“黒灰色大熊”が盛んに求愛しあう迷惑な季節――色んなのが飛んでくるんだよ。
花粉は飛ぶし、銀砂ってのも舞うし。
おまけにクマーの奴らも、路地の猫なみに煩いんだよ。
ぎゃーぎゃー鳴きやがって。
ったく。
イライラするってんだ。
エルフにだってな、性欲はあるんだよ。
普段から無い素振りするのも疲れるんだわ!!!!
◆
勇者一行は無事に、あたしたちの島大陸に渡った。
この街は、ラグナル聖国が北西・バリヤーナ自由都市国。
この世界でも珍しい、共和制の国家...かな。
国土は小さいけど、産業や政治、経済に文化のどれもが大国に負けないと自負する、国民性。
この国の民は、自信があった。
「いい雰囲気だ。...だが、いい雰囲気であるだけで、唐突に出てくる独裁者には対処が送れるかも知れんな。平時における合議制は、賢人たちの知識が国を豊かにするだろう」
自由都市の土を踏んだ時から、気になる目があった。
これも、王宮から飛んできた烏によって知らされてたこと――他大陸の勇者一行が、バリヤーナで消息を絶ったというもの。
だから、気を張ってた。
そして気が付いたわけで。
「ロムジー?」
「ええ、視られてますなあ」
三の王女に肩を借り。
船をやっとの思いで降りた勇者さえ、この視線はあからさまだった。
けど、彼は知らないフリに徹する。
《俺は未だ、本気出さないし...》