ただいま、逃走中 2
名士の自殺で闘技場の胴元があっさり割れた。
は、表向きの報道。
まさかあんな人が~とか。
え?そんな人だったの~とか...。
故人になっても人のうわさは絶えない。
街の発展にはその名で銅像が立つくらい貢献したのにも関わらず、掌返しはいささか虫が良すぎるというか。ま、利用している者たちにとっては、どんな金であったかなんて...どうでもいい事はままある。
結局、彼は死んじゃったんだ。
もう、弁明が出来ないほどにぐっちゃぐちゃだったらしい。
現場検証しますかって、教会から持ち掛けられたけど――行くわけがない。
さて、協会の方も全部が全部、信用しきった訳ではない。
第一発見者である邸宅の息子の証言には裏があるという見方は崩していないのだが。
分も悪いことは確かなようで。
魔法詠唱者協会には捜査権がない。
正教会の協力者という立場のみがやや渋々で認可されたようだ。
骨を折ったのは、後輩。
うん、できる後輩を持つあたしは、誇らしい。
何もしてないけど。
◇◆◇◆◇◆
「手際というか、引き際が良すぎるように思います」
と、後輩の部屋でふんぞり返る魔女がある。
後輩が“紅”だと言えば、こちらは“蒼炎”と二つ名で教会に飼われた魔女。
ふたりは同期だ。
あたしの知らないところで、あたしを取り合ってバトルしてたらしい。
なんであたし、だよ。
「その後、先輩は?」
得意げな修道女が胸を張りながら、
「当方の用意した部屋でゆるりとされておる!」
と、顎を突き出し...はしたない。
勝ち誇ったような笑みも浮かべてた。
「はんっ、大方自慢の舌技で篭絡したつもりだろうが、先輩は単に逝き易い特異体質なだけ!!! わたくしのTKB弄りでは、ヒバリのような声で囀られる」
本人が居ないところでどんな自慢話だよ。
いや、あたしが居てもして欲しくない会話だわ。
「時に手際だが」
「名士の息子か?」
20歳越えの息子の邸宅に、転がり込んできた父親という状況が腑に落ちないという。
「追及の手は、まだ及んでいなかったハズだ。いや、告解の禁を破らない限りは難しいとさえ思われるのに、名士はなぜ、逃走或いは自殺という道を選択した?!」
羽ペンがひらりと、舞う。
初歩的な魔法だが。
修道女から咳払いがでる。
「教会内で魔法は使わないように!」
「お堅い奴だ。舌は滑らかに動いても、そっちは治らんと見える」
魔女に出していた紅茶が下げられた。
まあ、勿論、羽ペンと同じ魔法でだが。
「なんじゃ、お前も使って居るじゃないか!!」
「この執務室は当方のですからね。勿論、主人が何しようと問題はないのですが...“蒼炎”さんも久しぶりに当方のマッサージ、受けていかれますか?」
誘いではなく嫌味。
ふたりとも、ちっさい喧嘩はしても寝床を温め合う趣味はないらしい。
学生時代にやらかしたトラウマにより、まあ...ね。
ふたりが技を互いの身体で競い合わなくなって、何年になるんだか。
「突拍子もないことかも知れないが、第一発見者が本物の胴元という可能性はないだろうか?」
「マッサージから逃げたいんですか?」
魔女は首を横に振り、
「マッサージは受けても良い。わたくしの艶を見て嫉妬しなければな」
修道女は、ほくそ笑む。
魔女の姿を舐めるように見て、
「どこが、どう出ていると?」
「わたくしも“紅”と同じ修道服を持っておるがの。窮屈で...」
「どこが?」
魔女は口元を扇で覆いながら、
「なんじゃ、お前は苦しくないのい、か。そうか、そうか...苦しくない!! わたくしは胸が苦しくて溜まらんので...ローブを着ておる! ま、先輩が揉みしだきたいと仰せならばその場でマッパに成れるよう、でもあるんじゃがな」
あたしは、揉まないぞ。
くぅー、こいつらあ~。




